ただ一人の裁判官が配属せられ且つその裁判官が簡易裁判所裁判官と地裁支部裁判官とを兼任している場合、裁判官が簡易裁判所に略式命令の請求があつた事件につき、これを略式命令不相当として通常公判手続に移し、二回の公判審理とこれに伴う証拠調をした上、地方裁判所において審判するのが相当だとしてさらに地方裁判所支部に移送し、自ら審理判決をしたとしても、その一事をもつて憲法第三七条第一項にいわゆる公平な裁判所の裁判でないということはできない。
憲法第三七条第一項に違反しない事例
刑訴法463条,刑訴法332条,刑訴法20条,裁判所法33条3項,憲法37条1項
判旨
簡易裁判所の裁判官が略式命令を不相当として通常公判に移し、さらに管轄地方裁判所へ移送した後に、同一の裁判官が地方裁判所の裁判官として本案の審理及び判決を行うことは、憲法37条1項の「公平な裁判所」に反しない。本件のように、一人で簡裁と地裁支部を兼任している等の事情がある場合、職務執行からの除斥事由に当たらず、不公平な裁判をするおそれも認められない。
問題の所在(論点)
簡易裁判所において略式命令の不相当通知および地裁への移送決定を行った裁判官が、移送先の地方裁判所において同一事件の審理・判決に関与することが、憲法37条1項の「公平な裁判所」による裁判を受ける権利を侵害し、違憲とならないか。刑事訴訟法上の除斥事由や不公平な裁判の該当性が問題となる。
規範
憲法37条1項にいう「公平な裁判所」とは、その組織、構成において偏頗(へんぱ)でない裁判所を指す。裁判官が法律上の除斥事由に該当せず、かつ具体的な事情から予断を抱き不公平な裁判をするおそれがあると認められない限り、同一の裁判官が先行する訴訟手続に関与していたとしても、直ちに不公平な裁判所とはいえない。
重要事実
被告人の事件につき、柏崎簡易裁判所の裁判官Aが略式命令を不相当として通常公判手続に移した。その後、同一の裁判官Aが公判審理を行い、懲役刑等が相当であるとして地方裁判所へ移送する決定を下した。さらにその後、事件が係属した新潟地方裁判所柏崎支部において、同一の裁判官Aが同支部裁判官として本案の審理を行い、有罪判決を言い渡した。
あてはめ
まず、本件の裁判官Aの関与は刑事訴訟法上の除斥事由には該当しない。また、弁護人等からの忌避の申立もなされていない。次に、柏崎のように一人の裁判官が簡易裁判所と地方裁判所支部を兼任している実情においては、本件のような経緯で審判を行うことは訴訟法上やむを得ない。たとえ裁判官が懲役刑相当との主観的判断から移送決定を行ったとしても、それだけで事件につき予断を抱き、不公平な裁判をするおそれがあるとは認められない。
結論
本件第一審の裁判は、憲法37条1項にいう不公平な裁判にはあたらず、違法ではない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
裁判官が同一事件の異なる段階の職務に関与する場合の「公平な裁判所」の限界を示す。特に、司法資源の制約がある地域での兼任体制下において、先行する手続的判断(移送決定等)を行った事実のみでは不公平な裁判とは評価されないという実務上の運用を肯定したものである。答案上は、除斥事由(刑訴法20条)の類推適用や憲法37条1項の解釈において、組織上の制約や具体的な偏頗性の有無を検討する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)1053 / 裁判年月日: 昭和23年10月19日 / 結論: 棄却
憲法第三七條に所謂公平な裁判所の裁判というのは、其組織權限が偏頗や不公平のおそれのない裁判所の裁判を指すのであつて、具體的に個々の裁判を指すのではないということは屡々當裁判所の判例とするところであるから、被告人に對する刑の言渡しが所論の如く重いとしても、憲法に所謂不公平な裁判ということには當らない。