第一審第一回公判において、出席の検察官より被告人の検察事務官に対する第一、二回供述調書の証拠調べ請求があつたのに対し、被告人側がこれを証拠とすることに同意せず、その証拠調べについて異議を申立てた結果、裁判所より右証拠調べの請求が却下せられたにもかかわらず、次の第二回公判において検察官が右供述調書の一部を被告人に読聞かしていることは所論の通りである。しかし、第一審第二回公判調書によると、検察官の被告人に対する質問の途中に「A小学校でどの様な話をしたのか」との質問に対し、被告人は「前に検察庁で調べられた時に述べた通りであります」と答えた旨の記載があつて、検察官も、そこで初めて前記供述調書の該当部分を被告人に読聞かせるようになつたこと及び右と同様の方法によるその後の検察官の質問に対しても、被告人は引続き、一々、任意の答弁をしていることが窺われ、かかる質問の方法に対し被告人側から異議を申立てた形跡も認められない。そして右供述調書は、同公判で検察官より再度証拠調べの請求があつたのであるが、同審第三回公判調書によると、被告人側もついにこれを証拠とすることに同意していることが認められる。以上のような訴訟の経過に照らして考えると、右のような質問も、検察官がいきなり被告人に証拠能力のない供述調書を読聞かして、裁判所に予断を与え、又は被告人に誘導尋問を試みたものと解すべきではない。
証拠調の請求が却下された検察事務官に対する被告人の供述調書を読聞けてした質問の適法な一事例
刑訴法311条,刑訴法295条,刑訴法326条
判旨
証拠調べ請求が却下された供述調書であっても、被告人が「検察庁で述べた通り」と答弁した等の訴訟経過に照らし、質問内容の補充という便宜目的であれば、検察官がその一部を読み聞かせて質問することは違法ではない。
問題の所在(論点)
証拠調べ請求が却下され、証拠能力が確定していない供述調書の内容を、検察官が被告人質問の中で読み聞かせて提示する手法が許されるか(被告人質問の限界)。
規範
検察官による被告人質問において、証拠能力が認められていない供述調書の内容を読み聞かせることは、原則として予断排除の原則や誘導尋問禁止に抵触し得る。しかし、裁判所に不当な予断を与える目的や不当な誘導を試みるものではなく、被告人の答弁内容を具体化・補充するための質問上の便宜にすぎない場合には、かかる質問方法は許容される。
重要事実
第一審において、検察官が提出した被告人の供述調書に対し被告人側が不同意とし、証拠調べ請求が却下された。その後の公判で検察官が「小学校でどのような話をしたか」と質問したところ、被告人が「検察庁で調べられた時に述べた通りである」と答えた。これを受け、検察官は調書の該当部分を読み聞かせて質問を継続した。被告人はこれに対し任意に答弁し、弁護人も異議を述べなかった。その後、第三回公判において被告人側は当該調書の証拠採用に同意した。
あてはめ
本件では、被告人自らが「検察庁での供述通り」と答弁したことを端緒として読み聞かせが行われている。これは、被告人に争いのない部分について質問内容を具体的に補充する便宜を図ったものといえる。また、被告人はこれに対して一々任意に答弁しており、弁護人もその場で異議を申し立てていない。さらに後の公判で証拠同意がなされている。これらの経緯を総合すれば、検察官が予断を与える目的や不当な誘導を意図して読み聞かせを行ったとは解されない。
結論
本件の質問方法は、質問の便宜上の措置として相当であり、違法ではない。
実務上の射程
刑事訴訟法における被告人質問の際、調書を「読み聞かせて確認する」手法の可否を判断する際の指標となる。実務上は、供述が不明確な場合の記憶喚起や内容の特定という必要性がある場合に、不当な予断を生じさせない範囲で肯定される余地を示している。
事件番号: 昭和26(れ)733 / 裁判年月日: 昭和26年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書において被告人が前回の公判調書記載の犯罪事実と同趣旨の供述をした旨が記載されている場合、当該証拠に基づき事実を認定することは適法であり、証拠によらずに事実を認定した違法はない。 第1 事案の概要:被告人らの刑事事件において、原審の第9回公判調書には「裁判長は被告人等に対し、右第5回・第6回…