一 原判決が相被告人甲に對する檢事の昭和二三年四月一三日、一四日、一五日附の各聽取書の供述記載及び相被告人乙に對する檢事の昭和二三年四月六日附聽取書の供述記載を證據としたこと、右甲乙は何れも昭和二二年一〇月二四日逮捕せられ、同月二七日勾留状を發せられたもので、右逮捕以來甲が昭和二三年四月一三日附聽取書の供述をする迄に約一七三日間乙が同人の右聽取書の供述をする迄に約一六〇日間拘禁されていたこと、及び甲乙の右各聽取書には、右兩名等が被告人Aと殺害行爲を共謀たし旨の右兩名各自の犯罪行爲に關する自白の供述が記載されていることは所論のとおりである。しかし、本件記録に微すれば本件は、彼此双方多人數が敵味方に別れ相鬪爭したいわゆる博徒の喧嘩にかゝる事案であり、第一審では五名の者が被告人として起訴され關係人もその數多く、しかも甲乙等は、逮捕當初は極力本件犯行は右兩名のみの犯行であると主張し、いわゆる親分たる被告人Aとの共犯であることを秘匿しようとつとめていた經過が明らかであるから、かゝる事案において、檢察官が事案の眞相を明らかにするためには、相當の日數を要するものといわなければならないので拘禁後一六〇日乃至一七三日後の自白といえども必ずしも、刑訴應急措置法第一〇條第二項にいわゆる不當に長い拘禁後の自白であるとはいえない(昭和二四年(れ)第二三六五號同年一二月三日第二小法廷判決參照)してみれば所論各聽取書の供述を證據とした原判決には何等違法はない、論旨は理由がない 二 共謀による共同正犯は、數人共同一体となり相互に手足となり共同の目的を遂行するものであるから、その一人から観察すると、他の共犯者の行爲も、亦自己の行爲と同視すべきものである。從つて數人共謀して、各自同一機會に夫々各別個の人を殺害し、又は殺害しようとして遂げなかつたときは、その共犯者の一人について見れば自己の時を接した數個の行爲により同一機會に數名の各別の人を殺害し或は殺害しようとして遂げなかつた場合と同視すべきであるから刑法第五五條の適用のあつた本件犯行當時においては殺人罪及び殺人未遂罪の一つの連續犯を構成するものと解するのを相當とする、してみればこれを一個の行爲で數個の殺人罪及び殺人未遂罪の罪名に觸れるものとした原判決は失當であるけれども原判決も、本件被告人の行爲を結局一罪として處斷しているのであつて、被告人の利害に何等影響を及ぼさないから原判決を破棄する理由とならない。 三 被告人が、「場合によつては殺傷沙汰に及ぶも止むなしと決意し」、又は、「成行によつては相手方を殺傷することも辞せざる意図の下に」、殺害行爲に出たとの判示は、被告人等に殺人罪の犯意があつたことを判示したものである。
一 拘禁後一六〇日乃至一七三日後の自白であつても不當に長い拘禁後の自白にあたらない事例 二 共謀共同正犯の殺人罪及び殺人未遂罪の連續犯にあたる罪につき刑法第五四條第一項前段を適用した判決の正否 三 「場合によつては」或は「成行によつては」相手方を殺傷するも止むを得ないとの決意と殺人罪の犯意
憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項,刑法55條(削除前),刑法60條,刑法54條1項,刑法199條,刑法203條
判旨
共謀共同正犯においては、各自の行為が共同の目的を遂行するため相互に一体となって行われる。したがって、複数人が共謀して同一機会に各別の者を殺害しようとした場合、各自が自己の連続した行為により数人を殺傷した場合と同視でき、一罪(当時の連続犯、現行法上は観念的競合や包括一罪の検討対象)として処断すべきである。
問題の所在(論点)
数人が共謀に基づき、同一の機会にそれぞれ別個の被害者を殺傷した場合における、共謀共同正犯の罪数関係はどうあるべきか。
規範
共謀による共同正犯は、数人が共同一体となり、相互に手足となって共同の目的を遂行するものである。そのため、共犯者の一人から観察すれば、他の共犯者の行為もまた自己の行為と同視すべきである。したがって、数人が共謀し、同一機会にそれぞれ別個の人を殺害または殺害しようとしたときは、一人について見れば、自己の時を接した数個の行為により同一機会に数名の者を殺傷した場合と同視すべきである。
重要事実
被告人Aは、他の共犯者らと「場合によっては殺傷沙汰に及ぶも止むなし」との殺意をもって共謀した。その後、被告人らは同一の機会に、敵対する博徒グループの複数名に対し、凶器を用いて乱闘・攻撃を加えた。この結果、被害者ら数名に対し死亡または傷害(殺人未遂)の結果を生じさせた。原判決は、これを一個の行為で数個の罪名に触れる(観念的競合)としたが、被告人は罪数判断の誤り等を理由に上告した。
あてはめ
本件において、被告人らは多人数で敵味方に分かれて闘争する中で、特定の目的のために共同して殺害行為を敢行している。このような共謀共同正犯の構造においては、他者の行為も自己の行為と同視されるため、一人一人の主観および客観的態様としては、時を接して連続的に数人を攻撃したのと同一の評価が可能である。当時の刑法下においては、このような態様は連続犯(旧刑法55条)として一罪を構成すると解するのが相当である(現行法上は、被害者ごとに複数の殺人罪等が成立しつつ、同一の共謀に基づく一連の実行行為であれば、社会通念上一個の行為として観念的競合になり得るとの趣旨を含む)。
結論
本件のように数人が共謀して同一機会に数人を殺傷した場合は、共犯者一人につき、自己の連続的行為による数人殺傷と同視すべきであり、一罪として処断される。原判決の罪数評価に一部不当な点はあっても、結局一罪として処断している以上、被告人の利害に影響はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
共謀共同正犯における「一部実行全部責任」の原則を罪数論の観点から補強する判例である。答案上は、数人の共犯者がそれぞれ別々の被害者を担当して攻撃した場合でも、共謀の範囲内であれば各自が全被害者に対する結果を負うこと、およびその罪数関係が実行行為の共通性や時間的・場所的近接性から一罪(または観念的競合)となり得ることを論理付ける際に引用できる。
事件番号: 昭和26(あ)235 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強盗を共謀し実行した者は、その実行に際して他の共犯者が行った殺人行為についても、共同正犯としての責任を免れない。 第1 事案の概要:被告人は他の共犯者と強盗を共謀し、その実行に着手した。しかし、実行の際、共犯者のうちの一人が被害者を殺害するに至った。被告人本人は直接殺害行為に及んでいないものの、強…
事件番号: 昭和25(れ)1112 / 裁判年月日: 昭和25年11月17日 / 結論: 棄却
強盗致死の一罪と認むべき所為につき、強盗未遂と強盗致死の両規定を適用した擬律錯誤があつても、これを連続犯として結局強盗致死の一罪で問擬している場合には、右擬律錯誤は未だ原判決破棄の理由と為すに足らない。