本件記録中には、被告人の警察署における供述が強制若しくは拷問による自白であることを推認させるような幾多の証人の供述が存在するのである。殊に、直接、取調の衝に当つた警察官自身が被告人の取調は被告人に手錠をはめたままで行われたこと、午前二時頃まで取調べたこと、警察官が四人がかりで、被告人を取調べたこと、警察官の一人が被告人を殴つたことのあることを認めていることを前述のとおりである。本件において記録を精査しても右各供述の真実性を疑うに足りるような資料は存在しないのであるから、原審が若し右各警察官自身の以上のごとき供述を以て、措信するに足らないものとしたのであるならば、それは原審のいわれなき独断であつて、経験則に反する判断といわなければならない。
自白の任意性についての判断と経験則違反
刑法186条,旧刑訴法336条,旧刑訴法326条,旧刑訴法409条,旧刑訴法337条,旧刑訴法411条,憲法38条1項,憲法38条2項,刑訴応急措置法10条1項,刑訴応急措置法10条2項
判旨
強制、拷問等によりなされた疑いのある自白について、納得すべき事由なく証拠能力を認めて事実認定に供することは、経験則違反または審理不尽の違法となる。
問題の所在(論点)
不任意自白の証拠能力(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に関連し、拷問・脅迫等の不当な取調を推認させる証拠があるにもかかわらず、これらを合理的な理由なく排斥して自白の証拠能力を認める事実審の判断の当否。
規範
自白が任意になされたものであるか、すなわち証拠能力を有するか否かの決定は事実審の自由裁量に委ねられるが、その判断は合理的で経験則に反しないものでなければならない。自白が強制・拷問等によるものであることを推認させる有力な証拠が存在する場合、これを排斥するに足りる納得すべき事由がない限り、当該自白を証拠として犯罪事実を認定することは許されない。
重要事実
被告人は警察での取調中、午前2時までの深夜に及ぶ連日の取調、数名の警察官による殴打・蹴り等の暴行、髪の毛を引っ張る、手錠をはめたままの引張り等の拷問を受け、これに耐えかねて自殺を図った後に自白に至ったと主張した。取調にあたった警察官らも、証人尋問において「午前2時までの取調」「署長による殴打」「手錠をはめたままの取調」「4人がかりの取調」といった事実を一部認める供述をした。しかし原審は、これらの事実が自白の任意性に及ぼす影響を十分に審理せず、特段の事情の斟酌も示さないまま、当該自白を証拠として有罪判決を下した。
あてはめ
記録上、直接取調を担当した警察官自身が、手錠の使用や深夜に及ぶ取調、暴行の事実を認める供述をしており、これらは被告人の供述と合致し自白が強制・拷問によるものであることを強く推認させる。原審がこれらの証言を措信しないとするならば、それは「いわれなき独断」であり経験則に反する。また、仮に手錠の使用等に正当な理由(自殺阻止等)があったとしても、原審はそのような特段の事情を審理した形跡がない。したがって、有力な反対証拠を納得すべき事由なく排斥した原審の判断は、合理的判断の枠組みを超えている。
結論
原判決には経験則違反または審理不尽の違法があり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるため、原判決を破棄し差し戻すべきである。
実務上の射程
自白の任意性に疑義を生じさせる具体的・客観的な事実(深夜取調、暴行、手錠等)が存在する場合、裁判所にはその影響を十分に審理し、合理的理由をもって判断を示す義務があることを強調する際に用いる。自由心証主義の限界を画する判例として重要である。
事件番号: 昭和42(あ)2629 / 裁判年月日: 昭和43年4月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】取調の際の暴行等による自白強要の主張があっても、当該自白調書が証拠として採用されていない場合には、原判決の違憲をいうものとはならず、適法な上告理由にならない。 第1 事案の概要:被告人は、警察官から取調べの際に暴行を受け自白を強要されたと主張し、憲法違反を理由に上告した。しかし、原判決およびその維…
事件番号: 昭和26(れ)2215 / 裁判年月日: 昭和27年1月29日 / 結論: 棄却
強盗が数人を殺害しようと決意し、続け様に三発拳銃を発射して一名を死亡させ他の一名に傷害を与えたとき、刑法第五四条第一項前段にあたる強盗殺人、同未遂であるとした原審の判断は相当である。