一 原審の昭和二四年一一月五日附公判調書によれば、裁判長は、判決の宣告をする旨を告げ、判決主文を朗読し、同時に理由の要旨を告げたことが明らかであるから、原判決の主文は、言渡の際に文書に記載せられていたものということができる。もとより判決は、その宣告するところと判決書に記載するところと異るようなことがないように、判決宣告の際に判決書の作成せられていることが望ましいことであり、殊に本件のように判決宣告後四〇日を経て判決書が作成せられるようなことは、妥当とはいえないが、それだからといつて直に右判決を違法であるということはできない。そしてこの見解は、大審院の判例とするところであるが(大正二三年(れ)一二三一号同年一一月二日判決)。当裁判所も右とその見解を一にするものである。 二 旧刑訴法第六八条は、合議制の裁判所の裁判官の中で裁判長が署名押印できないときと又は他の裁判官が署名押印できないときという通常に起り得る場合を規定したものであつて、即ち裁判長と一人の陪席裁判官とがともに署名押印できないような稀有の場合には、すべからく本件を類推適用して判決書に陪席の一裁判官が裁判長と陪席裁判官が署名押印できない事由を附記して署名押印することができるものと解するのを相当とする。
一 判決書作成の時期―判決宣告後四〇日を経て作成された判決書と右判決の正否 二 判決書と裁判官の署名押印
旧刑訴法66条,旧刑訴法51条2項,旧刑訴法68条
判旨
合議体の裁判官のうち裁判長及び他の裁判官が署名押印できない場合には、刑事訴訟法(旧法)の規定を類推適用し、残る一人の陪席裁判官がその事由を附記して署名押印することができる。また、判決書が宣告時に完成しておらず、後日作成されたとしても、直ちに当該判決が違法となるものではない。
問題の所在(論点)
1. 裁判官の多数が署名押印できない場合に、残る裁判官が事由を附記して署名押印することの可否。2. 判決宣告時に判決書が完成しておらず、相当期間経過後に作成された場合の判決の適法性。
規範
合議制の裁判所において、裁判長及び一部の裁判官が署名押印できないという稀有な事態が生じた場合、裁判官の署名押印に関する刑事訴訟法の規定を類推適用し、署名押印可能な裁判官がその事由を附記した上で署名押印を行うことができる。また、判決の宣告は主文の朗読と理由の要旨の告知によって行われるものであり、宣告時に判決書が完成していることが望ましいが、相当の期間(本件では40日)を経て判決書が作成されたとしても、それのみで判決を違法とすべきではない。
重要事実
原審において判決の宣告が行われた際、裁判長は主文を朗読し、理由の要旨を告げたが、実際に判決書が作成されたのは宣告から40日後であった。また、当該判決書への署名押印に際し、裁判長と一人の陪席裁判官が署名押印できない状態にあったため、残る一人の陪席裁判官がその事由を附記して署名押印を行った。上告人は、これらの手続が違法であると主張して上告した。
あてはめ
1. 署名押印について、旧刑訴法68条は裁判長または他の裁判官が欠ける場合を想定しているが、本件のように複数が欠ける場合も同様の必要性が認められるため、同条を類推適用して陪席裁判官が事由を附記して署名押印することは相当である。2. 判決書の作成時期については、公判調書によれば主文の朗読と理由の要旨の告知が適正になされており、言渡の内容自体は確定している。宣告から作成まで40日を要したことは妥当とはいえないものの、判決そのものを違法とするまでの事由とは認められない。
結論
本件判決書への署名押印及び作成手続に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
判決書作成の遅滞や署名押印の不備が直ちに判決の無効・取消事由にはならないことを示す。実務上、裁判官の事故等による署名不能時の代行署名の許容範囲を広げる根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1142 / 裁判年月日: 昭和26年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本決定は、被告人の上告について、刑事訴訟法405条の上告理由に該当せず、かつ同法411条を適用して判決を破棄すべき事由も認められないとして、上告を棄却したものである。 第1 事案の概要:被告人が原判決に対し上告を申し立てた事案。弁護人が提出した上告趣意の内容については、判決文からは不明であるが、刑…