乙のため傷つけられた甲が、そのことにつき乙方二階で乙と強談中、甲の輩下たる被告人等七、八名が乙方に馳せ集り、若し甲乙間に話がつかない場合には當然喧嘩となる情勢であり殺傷沙汰の起ることを豫期し、その場合は甲に加勢し、乙と爭鬪すべきことを暗に共謀して待期中、突如二階で物音がしたので一同は豫期の如く喧嘩が始まつたものと速斷して二階に押寄せ、その際被告人等の一人が乙に傷害を加へ死に致した場合は、たとえ甲乙間に未だ喧嘩が始まらず、なお談合中であつたとしても、被告人等は傷害致死の共同正犯たるの罪責を免れない。
共同犯行の意思を實行にうつす意思決定における動機の錯誤と共同正犯の一事例
刑法60條
判旨
特定の事実が発生した場合には暴行を行うという条件付の共謀であっても、その条件が成就したと判断して実行行為に及んだ以上、共謀共同正犯が成立する。共謀者の一人が実行した傷害致死の結果について、他の共謀者もその罪責を負う。
問題の所在(論点)
特定の状況が発生することを条件として暴行を合議した「条件付共謀」において、実際にはその状況が発生していなかったとしても、発生したと判断して行動を開始した場合に共同正犯が成立するか。また、共謀者の一人が引き起こした致死の結果について他の共謀者が責任を負うか(刑法60条、205条)。
規範
刑法60条の共同正犯が成立するためには、二人以上の者が特定の犯罪を行うことを合議する「共謀」が必要である。この共謀は、特定の事態が発生した場合に実行に移すという「条件付の意思決定」であっても、その条件が成就した(あるいは成就したと誤信した)と認めて実行に着手した場合には、共同正犯としての責任を免れない。
重要事実
被告人AおよびCらは、DとEとの間で話し合いがつかず喧嘩となった場合には共同して暴行を加えることを「暗に共謀」し、E方の階下で待機していた。その後、突如二階で物音がしたため、被告人らは予期していた喧嘩が始まったものと速断して二階へ押し寄せた。その際、共謀者の一員であるFがEに傷害を加え、死亡させるに至った。被告人らは、自分たちの共謀は条件付のものであり、実際には喧嘩という条件は成就していなかったため、暴行の意思決定も実行もなかったと主張して上告した。
あてはめ
被告人らは、Eと争闘すべきことを暗に共謀しており、二階での物音を契機に「予期の如く喧嘩が始まった」と速断して二階に押し寄せている。この事実は、被告人らが互いに意思を連絡し、共同暴行の意思を実行に移す意思決定をしたことを示すものである。仮に被告人らが主張するように、実際の状況が条件と合致していなかったとしても、共謀に基づき実行行為(押し寄せ)を開始した以上、共謀の存在は否定されない。したがって、共謀者の一人であるFが実行した傷害致死の結果についても、共同正犯の法理により、被告人ら全員がその罪責を免れないと解される。
結論
被告人らに傷害致死罪の共同正犯が成立する。上告棄却。
実務上の射程
条件付共謀における実行着手の判断基準を示す。予期した状況が生じたと判断して行動した以上、主観的な意思決定の連絡があるため共謀が認められる。また、共謀に基づく実行行為の結果(傷害致死)について、直接手を下していない共謀者にも責任が及ぶことを改めて確認する事案として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1942 / 裁判年月日: 昭和26年3月22日 / 結論: 棄却
裁判所が証拠により或る間接事実を認め、次いでその事実に基ずき直接事実を推認したとしても何等証拠法則に違背するものでないことは多言を要しないところであり(昭和二三年(れ)第七九九号同年一一月一六日第三小法廷判決集二巻一二号一五四九頁参照)、また伝聞証拠と雖も旧刑訴法の下においてその間接証拠なるの故を以て直ちにその証拠能力…