原判決は、酒類醪ならびに容器、器具を没收するにつき酒税法第六〇條第三項、同第六四條第二項のほかに刑法第一九條第二項を適用しているが、本件犯行當時の酒税法第六〇條第三項には「前二項ノ場合ニ於テハ其ノ製造ニ係ル酒類並ニソノ機械器具及容器ハ之ヲ没收ス」とあり同法第六四條第二項も右と同一の表現をしているのであつて、右各條は刑法第一九條に對する特別規定であり、刑法第一九條第二項の規定と異なり酒類器具等は犯人以外の者に屬すると否とにかかわらず没收する趣旨と思われる。
酒税法(昭和二四年法律第四三號による改正前のもの)第六〇條第三項、第六四條第二項の没收の趣旨と刑法第一九條との關係
酒税法60條3項,酒税法64條2項,刑法19條
判旨
犯人以外の者の所有物であっても没収できる旨を定めた特別法の規定は、刑法19条の特別規定として有効である。原判決が刑法19条2項を併用したとしても、物件が犯人以外の者に属しない以上、判決に影響を及ぼす誤りとは言えない。
問題の所在(論点)
刑法19条の特別規定としての没収規定の解釈、および犯人以外の者に属しない物件の没収における刑法19条2項適用の是非。
規範
特定の行政刑罰法規(酒税法等)において、没収の対象となる物件につき、所有者の如何を問わず没収する旨を定めた規定は、刑法19条の特別規定として解釈される。この場合、裁判所は刑法19条2項の要件(犯人以外の者に属しないこと等)に拘束されず、当該規定に基づき没収を行うことができる。
重要事実
被告人が、無免許で酒類および酒母・醪を製造したとして、旧酒税法違反で起訴された。原判決は、行為時法である昭和23年改正後の酒税法を適用し、酒類、醪、容器および器具を没収する際、酒税法60条3項および64条2項に加え、刑法19条2項を適用した。しかし、当時の酒税法には「何人の所有たるを問わず没収する」旨の明文はなく(後の改正で明文化)、刑法との適用関係が問題となった。
あてはめ
本件犯行当時の酒税法60条3項および64条2項は、酒類や器具等を「没収ス」と規定しており、これは後の改正法が「何人の所有たるを問わず」と明記したのと同趣旨の特別規定である。したがって、本件では酒税法の規定のみを適用すれば足り、刑法19条2項を引用する必要はなかった。もっとも、原判決は没収物件が「被告人以外の者に属しない」と認定しており、刑法の趣旨にも反しないため、余計な条文引用(蛇足)があっても判決を破棄すべき理由にはならない。
結論
特別法に義務的没収の規定がある場合、刑法19条に優先して適用される。本件没収は正当であり、上告は棄却される。
実務上の射程
行政刑法における「義務的没収」の規定が刑法19条の特別規定であることを確認した事例。現代の答案作成上は、第三者の所有物没収が関わる場合、憲法31条・29条(第三者没収事件判例)の観点からの検討が必要になるが、本判決は「犯人の所有物」である場合の条文適用の整理として有用である。
事件番号: 昭和26(あ)4197 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
酒税法第六〇条第四項の規定は、密造された酒類、副産物等はもちろんそれに使用しまたは使用せんとして準備した一切の原料、機械、器具又は容器を沒収する趣旨である。