一 刑法第一八六条第二項賭場開張図利罪の規定は、憲法第一三条に違反しない。 二 賭博及び富籤に関する行為が風俗を害し、公共の福祉に反するものと認むべきことは前に説明したとおりであるから、所論は全く本末を顛倒した議論といわなければならない。すなわち、政府乃至都道府縣が自ら賭場開張図利乃至富籤罪と同一の行為を為すこと自体が適法であるか否か、これを認める立法の当否は問題となり得るが、現に犯罪行為と本質上同一である或る種の行為が行われているという事実並びにこれを認めている立法があるということだけから国家自身が一般に賭場開張図利乃至富籤罪を公認したものということはできない。
一 刑法第一八六条第二項賭場開張図利罪規定の合憲性 二 政府乃至都道府縣が賭場開張図利乃至富籤罪と本質上同一の行為を為すことによつて右犯罪行為を公認したものといえるか
憲法13条,刑法186条2項
判旨
賭博及び賭場開張図利行為は、勤労の美風を害し副次的犯罪を誘発する恐れがあるため、憲法上の公共の福祉に反する。また、公営ギャンブル等の例外的な立法が存在しても、刑法の賭博に関する禁止規定が当然に無効となるものではない。
問題の所在(論点)
刑法186条2項(賭場開張図利罪)による処罰は、憲法13条(生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利)及び公共の福祉の観点から違憲といえるか。特に、公営ギャンブル等の存在が同条の合憲性に影響を与えるか。
規範
賭博に関する行為が禁止されるのは、単に個人の財産権侵害の問題にとどまらず、国民の怠惰浪費の弊風を生じさせ、健康で文化的な社会の基礎である勤労の美風を害し、さらに暴行、脅迫、殺傷、強窃盗等の副次的犯罪を誘発し、国民経済の機能に重大な障害を与える恐れがあるためである。ゆえに、これらの行為は公共の福祉に反し、刑法による処罰は憲法13条に抵触しない。また、特定の公的機関が法律に基づき例外的に射幸行為を主催している事実があっても、それは直ちに一般の賭博行為を公認したことにはならず、禁止規定の合憲性に影響しない。
重要事実
被告人は賭場を開張して利益を図ったとして、刑法186条2項(賭場開張図利罪)により起訴された。これに対し被告人側は、賭博は自己の財産を投ずる自由な行為であり反社会性がないこと、また、戦後において国家や自治体が「競馬」「競輪」「宝くじ」等を主催し、賭場開張と本質的に異ならない行為を公認している現状に照らせば、刑法による禁止規定は憲法13条(幸福追求権等)や98条に違反し無効であると主張して上告した。
あてはめ
賭博は一面では自由な行為に見えるが、他面で勤労によらず偶然の射幸心により財物を得ようとする性質があり、社会全体の勤労の美風を損ない、副次的犯罪(暴行や強盗等)を誘発する社会的弊害が顕著である。したがって、これを「公共の福祉」に基づき制限することは正当である。被告人は、国家が自ら公営ギャンブルを主催していることをもって、賭場開張が公認されたと主張するが、特定の立法に基づき適法とされる行為があるからといって、犯罪の本質である社会的弊害が消滅するわけではない。公認立法の当否は別途議論の余地があるとしても、現行刑法の禁止規定が公共の福祉に反するものとして無効になることはない。
結論
刑法186条2項は憲法13条に違反せず合憲である。公営ギャンブル等の存在は、同条の禁止を無効とする根拠にはならない。
実務上の射程
賭博罪の保護法益が「勤労の美風」や「副次的犯罪の防止」という社会的な風俗・秩序にあることを明確にした。憲法13条の「公共の福祉」による制約を認める際の代表的な判例である。また、公営ギャンブルとの均衡(不平等)については、立法政策の問題として司法審査の限界を示唆する側面も持つ。
事件番号: 昭和47(あ)154 / 裁判年月日: 昭和47年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賭博場開張等図利罪を規定する刑法186条2項は、憲法13条が保障する幸福追求権等に違反せず、合憲である。 第1 事案の概要:上告人は、賭博場開張等図利の罪(刑法186条2項)に問われ、有罪判決を受けた。これに対し、同条項が憲法13条に違反し違憲であると主張して上告したものである。 第2 問題の所在…
事件番号: 昭和45(あ)1706 / 裁判年月日: 昭和45年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法185条および186条2項が賭博行為を処罰することは、法の下の平等を定める憲法14条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が賭博場開張図利および賭博の罪に問われた事案において、弁護人は、これらの罪を処罰する規定は憲法14条(平等原則)に違反し無効である旨を主張して上告した。 第2 問題の所在…
事件番号: 昭和53(あ)1860 / 裁判年月日: 昭和54年2月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法185条の賭博罪が、公認された公営競技等との対比において私人の賭博行為のみを処罰の対象とする点は、立法政策の問題に属し、憲法14条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が私的に賭博行為を行ったとして刑法185条に基づき起訴された。これに対し、弁護側は、国や公共団体が行う公営競技(公営ギャンブ…