一 逮捕手續書を調べてみると右手續書は被告人を逮捕した巡査Aの作成したものでA巡査、B刑事、C司法主任の合作でないことは明らかである。そして右手續書にC司法主任が署名しているのは右手續書を逮捕調書に代えたためであつてC司法主任の捺印がないからといつて右手續書を無効であるということはできない。 二 本件公訴事實たる窃盜の事實と原判決の認定した遺失物横領の事實とは、その日時、場所において近接し双方財産を領得する犯罪であつて對象となつた財物も同一であるから基本的事實關係が同一であるとみられるのである。從つて原判決が本件公訴事實に對し遺失物横領の認定をしても舊刑訴法四一〇條第一八號に該當する違法があるとはいえない。
一 司法主任某の署名あるも捺印のない逮捕手續書の効力 二 公訴事實たる窃盜を遺失物横領と認定したことと公訴事實の同一性
舊刑訴法71條1項,舊刑訴法410條18號,舊刑訴法291條,刑法235條,刑法254條
判旨
公訴事実の細部に相違があっても、基本的事実関係が同一であれば公訴事実の同一性は失われない。窃盗罪の公訴事実に対し、日時・場所が近接し、かつ対象財物が同一である遺失物横領罪を認定することは許される。
問題の所在(論点)
窃盗罪として起訴された事案において、裁判所が公訴棄却や訴因変更手続を経ずに遺失物横領罪を認定することが、公訴事実の同一性の範囲内として許容されるか。
規範
公訴事実の日時、場所、方法等に多少の相違があっても、基本的事実関係が同一であると認められる場合には、公訴事実の同一性を失わない。
重要事実
被告人は窃盗罪の事実で起訴されたが、原審は遺失物横領罪の成立を認定した。当該両事実は、犯行の日時および場所において近接しており、かつ、いずれも財産を領得する犯罪であって、その対象となった財物も同一であった。
あてはめ
本件の窃盗の事実と遺失物横領の事実は、日時・場所が近接しており、同一の財物を対象とする財産罪である。このように、時間的・場所的密接性があり、かつ対象物が共通していることからすれば、両者は基本的事実関係において同一であるといえる。したがって、当初の公訴事実に含まれる範囲内での認定といえる。
結論
本件の窃盗と遺失物横領は基本的事実関係が同一であり、公訴事実の同一性が認められるため、訴因変更等の手続違背はなく適法である。
実務上の射程
訴因変更の可否や要否を判断する際の「公訴事実の同一性」の基礎となる「基本的事実関係の同一性」に関する初期のリーディングケースである。特に、占有離脱の有無が微妙な事案において、窃盗と遺失物横領の間の流動的な認定を肯定する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和36(あ)2447 / 裁判年月日: 昭和37年3月15日 / 結論: 棄却
被告人は某日午後一一時四〇分頃千葉県印幡郡a町a某病院前付近の道路上において、甲の保管にかかるその兄所有の腕時計一個を窃取したとの事実(主たる訴因)と、被告人は前同日時場所において、甲と乙が喧嘩闘争をする際、甲がその場に脱ぎ捨てたジヤンバーのポケツトから路上にころがり出た右時計一個を拾得して甲のため占有保管し、その翌日…
事件番号: 昭和26(あ)4626 / 裁判年月日: 昭和28年5月29日 / 結論: 棄却
一 「被告人は甲日、某信用組合において、事務員Aが誤つて他人に支払うべき払戻金三万五千円を被告人に提供せんとするや右誤信に乗じてこれを受け取り騙取した」との詐欺の事実(主たる訴因)と「被告人は甲日某信用組合事務員の過失により他人に支払うべき払戻金三万五千円を受領し帰宅後、事務員Bより財布の内容を尋ねられるや、領得の意思…