一 使途を定められて寄託された金銭については特別の事情のないかぎり受託者は刑法第二五二条にいわゆる「他人ノ物」を占有するものと解すべきであつて、受託者がその金銭について擅に委託の本旨に違つた処分をしたときは横領罪を構成する。 二 旧刑訴法第四〇四条は、憲法第三七条第一項に違反しない。
一 使途を定められて寄託された金銭と横領罪 二 旧刑訴法第四〇四条と憲法第三七条第一項
刑法252条,民法657条,憲法37条1項,旧刑訴法404条
判旨
使途を限定して寄託された金銭は、特段の事情がない限り受託者において「他人の物」にあたり、受託者がこれを委託の本旨に反して処分したときは横領罪が成立する。金銭の所有権が受託者に移転するか否かという民法上の判断にかかわらず、刑法上の保護に値する委託関係に基づく占有を重視すべきである。
問題の所在(論点)
使途を限定して託された金銭(または小切手)について、受託者がその趣旨に反して処分した場合に、刑法252条1項の横領罪が成立するか。金銭の所有権が受託者に移転するという民法上の原則と、横領罪における「他人の物」の解釈が問題となる。
規範
刑法252条1項の「他人の物」とは、民法上の所有権の所在にかかわらず、委託の趣旨に照らして受託者がその勝手な処分を制限されている物をいう。特に、使途を限定して寄託された金銭は、単純な商取引の履行として授受される代金等とは性質を異にし、特段の事情がない限り受託者にとって「他人の物」にあたる。したがって、受託者が委託の本旨に背いてこれを処分した場合には横領罪が成立する。
重要事実
被告人は、製茶員受資金(使途が限定された資金)として金銭の寄託を受けたほか、他人の家屋の買受代金の内金に充当する目的で小切手の交付を受けた。被告人は、これらの金品を委託の趣旨に反して勝手に処分した。被告人側は、金銭は代替物であり交付により所有権が受託者に移転するため、自己の物であって「他人の物」にはあたらないと主張して上告した。
あてはめ
本件において、小切手は将来の買受代金への充当という限定された使途のために託されたものであり、被告人に自由な処分を許す意思で交付されたものではない。また、製茶員受資金として寄託された金銭も、その使途が限定されている。このように使途が特定されている場合、単純な売買代金の支払といった商取引の履行とは異なり、受託者は委託の趣旨に拘束される。本件金銭等には将来被告人が受け取るべき利益も含まれておらず、被告人がこれを恣意的に処分した行為は、委託の本旨に違背するものといえる。
結論
被告人は、使途を限定して委託された金銭等を「他人の物」として占有していたといえるため、これを勝手に処分した行為には横領罪が成立する。
実務上の射程
金銭の不法領得に関するリーディングケースである。民法上の「所有と占有の一致」の原則によれば金銭の所有権は占有者に帰属するが、刑法上は委託関係を重視し、使途限定がある場合には「他人の物」性を肯定する。実務上は、単なる債務不履行(代金未払等)と横領罪を区別する境界線として、使途の特定性の有無が重要となる。
事件番号: 昭和27(あ)490 / 裁判年月日: 昭和28年4月16日 / 結論: 棄却
委託販売においては、特約ないし特殊の事情がないかぎり、委託品の売買代金をほしいままに着服または費消するときは横領罪を構成する。