「被告人は、ほか三名と甲村所在乙会社倉庫より国有綿を窃取せんことを共謀の上、昭和二二年八月二六日ほか三名が乙会社倉庫において国有綿糸八俵及び中古リヤカー一台を窃取した」との公訴事実と「被告人は、ほか三名が昭和二二年八月二六日頃乙会社倉庫から窃取してきた国有綿糸八俵のうち六俵をその盗品たる情を知りながら同年九月初旬頃甲村所在の被告人自宅に蔵匿寄蔵した」との原判決認定の事実とは同一性を失わない。
公訴事実の同一性の認められる一場合
旧刑訴法410条18号,旧刑訴法291条,旧刑訴法360条1項
判旨
公訴事実と認定事実が基本的事実において同一性を保持しており、かつ被告人の防御権を不当に阻害しない限りにおいて、訴因変更手続を経ずに異なる罪名を認定することが可能である。窃盗の共謀と贓物寄蔵の間には、領得行為への関与という点で密接な関係があり、事実の同一性が認められる。
問題の所在(論点)
窃盗罪として起訴された事実に対し、訴因変更の手続を経ることなく贓物寄蔵罪を認定することが、「事実の同一性」の範囲内として許容されるか。
規範
公訴事実(訴因)と裁判所が認定しようとする事実との間に「事実の同一性」が認められる場合には、裁判所は訴因変更の手続を経ることなく、起訴状記載の罪名とは異なる犯罪事実を認定できる。この「事実の同一性」の判断にあたっては、両者の基本的事実関係が共通しているか、および訴訟の経過に照らして被告人の防御に不利益を与えないかという観点から判断すべきである。
重要事実
被告人は、共犯者らと共謀して倉庫から綿糸を窃取したとして「窃盗罪」の共同正犯で起訴された。しかし、原審(二審)は、窃盗の共謀までは認められないものの、被告人が窃取の計画を事前に了承し、窃取後まもなく盗品の一部を自宅に蔵匿した事実を認定し、訴因変更の手続を経ずに「贓物寄蔵罪」を成立させた。これに対し被告人側が、起訴事実と異なる事実を認定したことは違法であるとして上告した事案である。
あてはめ
本件における窃盗の訴因と贓物寄蔵の認定事実は、同一の場所・日時において行われた綿糸の不法領得に対する被告人の関与という点で共通している。具体的には、起訴事実は「窃盗の共謀」を捉えたものであるのに対し、認定事実は「共謀には至らないが事前の了承があり、その後の寄蔵行為を行った」というものであり、両者は密接に関係している。また、起訴以来の訴訟経過に鑑みれば、被告人の防御や反証の機会を不当に奪ったともいえない。したがって、両者は基本的事実において同一性を保持していると解される。
結論
窃盗罪の起訴に対して、事実の同一性が認められる範囲内で贓物寄蔵罪を認定することは正当であり、訴因変更手続を欠く等の違法はない。
実務上の射程
新刑事訴訟法下(本件は旧法からの移行期)における訴因変更の要否、特に「公訴事実の同一性(312条1項)」の解釈に関するリーディングケース。答案では、単に日時・場所の共通性だけでなく、被告人の防御権の観点を含めた実質的な同一性を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)3398 / 裁判年月日: 昭和27年10月30日 / 結論: 棄却
「被告人IはKと共謀して昭和二五年一二月二日頃堺市a町b丁目)c番地jで自転車一台及び飴一瓶を窃取した。」との窃盗の訴因を「被告人Iは同日右j附近までKと同行し同人の依頼により賍品たる自転車等をその情を知りながら大阪市d区e町f丁目g番地附近まで運搬した。」との賍物運搬の訴因に変更することは差支えない。
事件番号: 昭和26(あ)98 / 裁判年月日: 昭和27年5月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】盗品等寄蔵罪と盗品等運搬罪の関係につき、各行為が全然別個独立の犯意の発現に基づくものである場合には、併合罪(刑法45条前段)が成立する。 第1 事案の概要:被告人が盗品等の寄蔵および運搬を行った事案において、原判決は、寄蔵行為と運搬行為が全然別個独立の犯意の発現に基づくものであると認定した。これに…