一 記録を調べてみると、第一審裁判所は、昭和二二年九月二六日の公判において、所論Aを證人として訊問していることが明らかである。それゆえ、被告人に對しては、すでに右證人を公判期日において、訊問する機會を與えているのであるから、原審が右證人訊問申請を却下しながら同證人に對する檢事事務官の聽取書を證據に採用しても刑訴應急措置法第一二條及び憲法第三七條に違反するものではない。(昭和二四年(れ)第一三五八號同年八月二日當裁判所第三小法廷判決、昭和二三年(れ)第一七一八號同二四年三月三一當裁判所第一小法廷判決) 二 第三者の供述を證據とするにはその者を公判において、證人として必らず、訊問しなければならないものではなく、公判廷外における聽取書をもつて、證人に代えることを憲法第三七條は許さないものではないことについても、當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第一六七號同年七月一九大法廷判決)。されば原判決には、憲法第三七條違反はない。 三 刑訴應急措置法第二〇條および第二一條は、舊刑訴法によつて認められている檢察官の附帯控訴に關する規定を廢止したものではない。
一 第二審において證人訊問申請を却下しながら第一審における右證人に對する檢察事務官の聽取書を採證することの正否 二 公判廷外における聽取書をもつて證人に代えることの可否と憲法第三七條 三 刑訴應急措置法第二〇條、第二一條は舊刑訴法第三九九條が規定する附帯控訴の制度を廢止したか
刑訴應急措置法12條1項,刑訴應急措置法20條,刑訴應急措置法21條,憲法37條2項,舊刑訴法399條
判旨
被告人に証人を公判期日で尋問する機会が既に与えられていたのであれば、控訴審が証人尋問請求を却下した上で、当該証人の検察事務官聴取書を証拠に採用しても、被告人の権利を侵害するものではない。
問題の所在(論点)
被告人に証人を尋問する機会を十分に保障すべきという原則(憲法37条2項、刑訴法上の伝聞法則等)に関し、既に一審で尋問機会があった証人について、控訴審が尋問請求を却下しつつ、その供述録取書を証拠に採用することが許されるか。
規範
公判外の聴取書を証人尋問に代えることは憲法37条に違反せず、既に公判期日において証人を尋問する機会が与えられていたのであれば、重ねて証人尋問を行わずとも、当該証人の供述録取書を証拠として採用することは許容される。
重要事実
第一審裁判所は、昭和22年9月26日の公判において証人Aを尋問した。その後、原審(控訴審)は、弁護人が請求した証人Aの尋問申請を却下する一方で、同証人に対する検察事務官の聴取書を証拠として採用した。これに対し被告人側が、証人尋問の機会を与えずに聴取書を採用したことの違法性を主張して上告した事案である。
あてはめ
記録によれば、第一審の公判において証人Aに対する尋問が既に行われていた。この事実から、被告人には当該証人を公判期日において尋問する機会が既に与えられていたといえる。したがって、原審が改めての尋問請求を却下した上で、証人の供述を記載した検察事務官聴取書を証拠として採用したとしても、手続的な保障を欠く違法があるとは解されない。
結論
被告人に尋問の機会が既に与えられていた以上、原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
伝聞例外(特に一審での証人尋問と供述録取書の併用)に関する初期の判例である。現代の刑事訴訟法下では、321条等の伝聞例外要件の充足が厳格に求められるが、本判決は「一度でも尋問機会があれば憲法的要請は充たされる」という射程を示すものとして、反対尋問権の保障の限度を検討する際の基礎となる。
事件番号: 昭和26(れ)203 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人側が証人尋問の申請をせず、適法な証拠調べ手続を経た供述書等の証拠採用については、憲法違反や手続上の違法を構成しない。 第1 事案の概要:被告人が起訴された事件において、原審(控訴審等)は関係者AおよびBの聴取書(供述書)を証拠として採用した。これに対し、被告人側は当該書類を証拠としたことは刑…