公判調書の記載は必ずしも立会書記官の自筆であることを要するものではないのであつて、不動文字で記載することを禁ずる法規はない。そして公判調書は裁判長および裁判所書記官がこれに署名押印してその記載の正確なことを証明するのであるから(刑訴規則第四六条)不動文字だから不正確だとは言い得ない。ところで本件記録に当つて見ても本件公判調書の記載の正確を疑わせる筋もなくまたそれにつき当事者から異議が申し立てられてもいない。(刑訴法第五一条)それゆえ不動文字による公判調書の記載の理由だけで第一審公判手続の正当を疑い被告人の供述が不任意であつたかも知れないと主張するわけには行かないので、右被告人の供述を任意自由の自白と認めた原審の判断をくつがえすに足りない。
不動文字による公判調書の記載と被告人の供述の任意性
刑訴規則37条,刑訴規則46条
判旨
公判調書の記載が不動文字(印刷された固定文言)でなされていることのみをもって、直ちにその正確性や供述の任意性を否定することはできない。
問題の所在(論点)
公判調書の供述記載部分が不動文字で作成されている場合に、公判手続の適法性や自白の任意性が否定されるか。
規範
公判調書の記載は必ずしも立会書記官の自筆であることを要せず、不動文字による記載を禁ずる法規も存在しない。公判調書の正確性は、裁判長および裁判所書記官による署名押印(刑事訴訟規則46条)によって証明されるものであり、不動文字であることの一事をもって不正確とは断じ得ない。
重要事実
第一審の第一回公判調書において、「別に争うこと(陳述すること)はありません」という被告人および弁護人の答弁部分が不動文字で印刷されていた。被告人側は、これが公判手続の正当性を疑わせ、不利益な供述の強要や基本的人権の侵害(憲法違反)にあたると主張して上告した。なお、当該調書の記載内容について、当事者から異議の申し立て(刑事訴訟法51条)はなされていなかった。
あてはめ
本件公判調書には裁判長および書記官の署名押印があり、手続上の正確性は担保されている。また、不動文字による記載があるという点以外に、記載の正確性を疑わせる具体的な事情は見当たらない。さらに、当事者からも刑訴法51条に基づく異議の申し立てがなされていない。したがって、不動文字であることを理由に、直ちに被告人の供述が不任意であったと推認することはできず、原審が自白の任意性を認めた判断に誤りはない。
結論
不動文字による公判調書の作成は適法であり、それのみをもって供述の任意性や公判手続の正当性が失われることはない。
実務上の射程
公判調書の形式的真正とその記載内容の正確性の推認に関する判断である。答案上は、公判手続の適法性や自白の任意性が争われる際、調書の作成形式(不動文字の使用)が直ちに違法事由とならないことを示す根拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)2829 / 裁判年月日: 昭和30年7月22日 / 結論: 棄却
所論の起訴状朗読等は昭和二七年二月一日以降公判調書の必要的記載事項でなくなつたのであるから所論の第一審における公判調書にその記載のない一事をもつて直ちにその手続が行われなかつたことにはならない。