一 刑法第二〇五条第二項の規定は、新憲法実施後の今日においても、厳としてその効力を存続するものというべく、従つて本件において原審が被告人の尊属致死の所為を認定しながら、これに同法条の適用を拒定し、一般傷害致死に関する同法第二〇五条第一項を擬律処断したことは、憲法第一四条第一項の解釈を誤り、当然に適用すべき刑事法条を適用しなかつた違法があることに帰し本件上告はその理由があるのである。 二 おもうに憲法第一条が法の下における国民平等の原則を宣明し、すべて国民が人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会関係上差別的な取扱を受けない旨を規定したのは、人格の価値がすべての人間について同等であり、従つて人種、宗教、男女の性職業、社会的身分等の差異にもとずいて、あるいは特権を有し、あるいは特別に不利益な待遇を与えられてはならぬという大原則を示したものに外ならない。奴隷制や貴族等の特権が認められず、又新民法において妻の無能力制、戸主の特権的地位が廃止せられたごときは畢竟するにこの原則に基くものである。しかしながら、このことは法が、国民の基本的平等の原則の範囲内において、各人の年齢、自然的素質、職業、人と人との間の特別の関係等の各事情を考慮して、道徳正義、合目的性等の要請より適当な具体的規定をすることを妨げるものではない。刑法において尊属親に対する殺人、傷害致死等が一般の場合に比して重く罰せられているのは、法が子の親に対する道徳的義務をとくに重要視したものであり、これ道徳の要請にもとずく法にある具体的規定に外ならないのである。
一 刑法第二〇五条第二項の尊属傷害致死の規定は憲法第一四条に違反するか 二 憲法第一四条にいわゆる「法の下における平等」の意義と刑法における尊属殺人等の規定
憲法14条,刑法205条2項,刑法200条
判旨
尊属に対する加重処罰規定(旧刑法205条2項等)は、親子間の道徳的義務という普遍的な倫理を重視する道徳の要請に基づく合理的な差別であり、憲法14条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
刑法205条2項(および200条)が定める、直系尊属に対する犯罪を一般の犯罪よりも重く処罰する「尊属加重規定」が、憲法14条1項の「法の下の平等」に反し違憲とならないか。
規範
憲法14条1項の平等原則は、事物の性質に応じた合理的根拠に基づく差別を妨げるものではない。親子間の道徳、すなわち尊属に対する敬愛・感謝の情は「人倫の大本」であり人類普遍の道徳原理(自然法)に属する。これを保護するために卑属の背倫理性を重視し、刑罰を一般の場合より加重することは立法政策の範囲内であり、合理的な差別として許容される。
重要事実
被告人は、自身の直系尊属に対して傷害を加え、その結果として死亡に至らしめた(尊属傷害致死)。第一審判決は、刑法205条2項(尊属傷害致死罪)が憲法14条1項の平等原則に反し無効であるとして、同条1項(一般の傷害致死罪)を適用して処断した。これに対し検察官が、尊属加重規定の合憲性を主張して上告した事案である。
あてはめ
憲法14条1項は国民の基本的平等の範囲内において、特別の関係等の各事情を考慮した具体的規定をすることを妨げない。本件規定の主眼は、被害者保護のみならず、加害者たる卑属の「背倫理性」を重くみる点にある。親子の道徳は封建的な家族制度と混同されるべきではなく、自然法上の普遍的原理である。また、親子の関係は同条項が列挙する「社会的身分」等には該当せず、対象の差に従って異なる取扱いをすることも直ちに平等原則に反するものではない。さらに、被害者の範囲をいかに画定するかは立法政策の問題であり、合理的な根拠を欠くとはいえない。
結論
刑法205条2項は憲法14条1項に違反せず、合憲である。したがって、被告人には同条2項を適用すべきである。
実務上の射程
本判決は後に、尊属殺重罰規定を違憲とした最大判昭48.4.4によって実質的に変更された。現在の司法試験答案では、本判決の「尊属加重そのものは合憲」とする枠組みと、後の判例の「加重の程度が過大であれば違憲」とする枠組みを区別して理解することが求められる。
事件番号: 昭和48(あ)1997 / 裁判年月日: 昭和49年9月26日 / 結論: 棄却
尊属傷害致死に関する刑法二〇五条二項の規定は、憲法一四条一項に違反しない。