配偶者の直系尊属に対する傷害致死について定めた刑法二〇五条二項の規定は、憲法一四条に違反しない。
配偶者の直系尊属に対する傷害致死について定めた刑法二〇五条二項と憲法一四条
憲法14条,刑法205条
判旨
尊属に対する尊重敬愛は普遍的倫理として刑法上の保護に値し、尊属傷害致死罪における刑罰の加重は合理的根拠に基づく差別的取扱いとして、憲法14条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
尊属に対する傷害致死を通常の傷害致死(刑法205条1項)よりも重く処罰する刑法205条2項の規定は、憲法14条1項に違反するか。特に、配偶者の直系尊属を対象に含める点および加重の程度が問題となる。
規範
法の下の平等を定める憲法14条1項との関係で、刑罰の加重規定が合憲となるためには、その差別的取扱いに合理的根拠が認められなければならない。尊属に対する尊重敬愛という普遍的倫理の維持は刑法上の保護に値する目的であり、その目的達成のために通常の罪に比して刑を加重すること自体は直ちに合理的根拠を欠くとはいえない。ただし、その加重の程度が目的との対比において著しく不合理でないことが必要である。
重要事実
被告人が、現に生存する配偶者の直系尊属(義親)に対して傷害を負わせ、死に至らしめた事案。第一審および控訴審は、刑法205条2項(尊属傷害致死罪)を適用して有罪とした。これに対し弁護人は、同条項は尊属殺重罰規定に関する違憲判決(最大判昭48・4・4)の趣旨に鑑み、憲法14条1項に違反し無効であると主張して上告した。
あてはめ
まず、尊属に対する尊重敬愛は社会生活上の基本的道義であり、配偶者の直系尊属との間にも同様の敬慕と親愛の情が結ばれるべき道義的秩序が存在するため、これを保護対象とすることには合理性がある。次に加重の程度について検討すると、尊属傷害致死罪(3年以上の有期懲役)は、尊属殺人罪(死刑または無期懲役のみ)とは異なり、普通の傷害致死罪(2年以上20年以下の懲役)と比較して刑罰加重の程度が著しく大きいとはいえない。したがって、本規定は極端に重いものとは評価できず、合理的根拠に基づく差別的取扱いの範囲内に留まる。
結論
刑法205条2項は、憲法14条1項に違反しない。
実務上の射程
尊属殺重罰規定(旧刑法200条)を違憲とした最大判昭48・4・4(尊属殺重罰規定違憲判決)の射程を画定する判決。目的の正当性は認めつつ、法定刑が「著しく不合理」か否かという手段の相当性において、傷害致死罪の加重規定は合憲の範囲内にあることを示した。なお、刑法205条2項は平成7年の刑法改正により削除されたが、法の下の平等に関する目的・手段審査の枠組みとして現在も意義を持つ。
事件番号: 昭和48(あ)1997 / 裁判年月日: 昭和49年9月26日 / 結論: 棄却
尊属傷害致死に関する刑法二〇五条二項の規定は、憲法一四条一項に違反しない。