一 そこで、第一審の言渡した懲役六月、執行猶予三年間の刑と原審の言渡した禁錮三月の刑とはその何れが重いかの問題を生ずる。実質的には執行猶予のもつ法律的社会的価値判断は実際において高く評価されており又さるべきものである。かくて、本件において第一審の懲役六月が第二審において禁錮三月に変更されているにかかわらず、前者には執行猶予がつけられていたが後者にはこれがつけられていないのであるから、この具体的な両者の刑の比較の総体的考察において、原審の刑は重くなつていると言わなければならぬ。そうなると、原判決は理由においては、第一審判決は重すぎるから軽くすべきだと言いながら、その結論である主文においては却つてより重き刑を盛つたことになり理由と主文に食違いが存在する。この違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであり、かつ原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる場合に該当する。 (少数意見要旨)裁判官斎藤悠輔 二 しかし、かように第一審の言渡した単一刑の量定が不当であることを理由として(刑訴法第三八一条参照)の検察官並びに被告人の双方から控訴をした場合に(事実誤認を理由とする場合も同一)原控訴裁判所が第一審判決の刑を重きに失するものと認めるのは結局第一審判決の刑の量定が不当であると判断するものであつて、反対の根拠に立つて量刑軽きに過ぎるが故に刑の量定が不当であると主張する検察官の控訴も同時に理由あるに帰するものであるといわなければならない。従つて、控訴裁判所は判決の理由において説明するは格別原判決のように主文において検察官の控訴を棄却する言渡を為すべきものではない。
一、懲役六月執行猶予三年の言渡を禁錮三月に改めることと刑の不利益変更 二、理由のくいちがいが著しく正義に反することになる一事例 三、検察官並びに被告人双方から量刑不当を理由をする控訴を申立てた場合に検察官の控訴につき主文において棄却の言渡を為すことの可否
刑訴法381条,刑訴法396条
判旨
不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)の趣旨に鑑み、刑の軽重は単に法定刑の序列(刑法10条)のみならず実質的に判断すべきであり、執行猶予付の懲役刑を執行猶予のない禁錮刑に変更することは不利益な変更にあたる。
問題の所在(論点)
執行猶予付の懲役刑を、これより刑期は短いが執行猶予の付かない禁錮刑に変更することが、実質的に刑を重くしたといえるか。また、判決の理由(「軽くすべき」)と主文(「実質的に重い刑」)の食い違いが破棄事由となるか。
規範
刑の軽重の比較においては、形式的な法定刑の序列(刑法10条)だけでなく、法律的・社会的価値判断に基づく実質的な考察が必要である。特に執行猶予は、現実の執行を免れ、猶予期間の経過により刑の言渡しの効力自体を失わせる重大な利益を有する。したがって、具体的な刑の比較においては、執行猶予の有無を総体的に考慮して判断すべきである。
事件番号: 昭和24(れ)356 / 裁判年月日: 昭和24年3月24日 / 結論: 破棄差戻
原判決摘示の被告人の供述部分は、寧ろ被告人が假指定の事實を知らなかつた有力なる反證と見るのが相當である。しかるに原判決が被告人のその前後の供述部分を無視抹殺して全然反對の立證趣旨にこれを供したのは實驗則に反して事實を認定した違法があるものといわざるを得ない。
重要事実
第一審判決が被告人を懲役6月、執行猶予3年に処したのに対し、被告人および検察官双方が控訴した。原審(控訴審)は、理由中で第一審の量刑は「重きに失する」として被告人の控訴を理由ありと判断し、第一審判決を破棄した。しかし、自判の結論(主文)においては、被告人を執行猶予の付かない禁錮3月に処した。
あてはめ
形式的には、懲役は禁錮より重く(刑法10条1項)、6月は3月より長い。しかし、実質的に見れば、第一審は執行猶予により現実の執行を免れる地位を付与していたのに対し、原審は期間が短縮されたとはいえ直ちに実刑となる禁錮を言い渡している。執行猶予のもつ社会的・法律的価値は極めて高く、これを取り去ることは、具体的刑の比較において総体的に「重くなっている」と評価される。よって、理由で「軽くすべき」と述べながら実質的に重い刑を科した原判決は、理由と主文に齟齬があるといえる。
結論
執行猶予付の刑を執行猶予のない刑に変更することは実刑の期間が短縮されても不利益な変更にあたる。本件原判決には理由と主文の食い違いという違法があり、著しく正義に反するため破棄を免れない。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)の適用場面において、刑の軽重を「実質的」に比較する際のリーディングケースである。答案上は、不利益変更の有無を検討する際、単なる刑期や刑種だけでなく「執行猶予の有無」を決定的な判断要素として引用する。
事件番号: 昭和26(あ)2559 / 裁判年月日: 昭和26年9月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】単なる事実誤認の主張は刑訴法405条の上告理由に当たらない。また、記録を精査しても同法411条を適用して原判決を破棄すべき事由は認められない。 第1 事案の概要:被告人が、原判決(詳細は判決文からは不明)に事実誤認があるとして上告を申し立てた事案。上告趣意書において事実関係の誤りを主張したが、法律…
事件番号: 昭和25(あ)3276 / 裁判年月日: 昭和26年2月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審判決の擬律に誤りがある場合であっても、それが判決の結果に影響を及ぼすものでないと認められるときは、上告審が職権により原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。 第1 事案の概要:上告人は、原判決には証拠理由の不備があり憲法31条に違反する旨、および法令の適用(擬律)に誤り…
事件番号: 昭和25(あ)2981 / 裁判年月日: 昭和26年1月19日 / 結論: 棄却
刑訴法第四〇〇条但書には、それに「及び」の辞句を用いているからといつて、控訴裁判所が訴訟記録並びに第一審で取調べた証拠のみによつて直ちに判決することができると認める場合でも、常に新な証拠を取調べた上でなければ、いわゆる破棄自判ができない旨を規定しているものと解すべきではなく、むしろ、同規定は、控訴裁判所が自ら新らたにか…
事件番号: 昭和23(れ)934 / 裁判年月日: 昭和23年9月8日 / 結論: 破棄自判
一 贈賄被疑及び同被告事件につき勾留されたこと、贈賄罪により罰金二百八十圓に處せられた事實は、公職禁止、退職等に關する昭和二二年勅令第一號第一六條第一項第一號にいわゆる「重要な事項」に該當しない。 二 公職に關する就職禁止、退職等に關する昭和二二年勅令第七條第一項の調査表に所謂著述した刊行物とは、一定の思想を發表するた…