一 憲法三九条にいわゆる「既に無罪とされた行為」とは、確定裁判により無罪とされた行為を指し、所論のように「犯罪後刑の廃止若しくは大赦、特赦あつたとき又は社会の情勢上処罰の必要なきに至つた場合等」をいうものではない。そして、物価統制額が廃止されても一旦成立した物価統制令違反の犯罪を無罪たらしめるものでないこと論を待たないから、うずら豆に対する物価統制が廃止されたからといつて、その統制額を超えて販売する目的で、うずら豆を所持していた本件犯罪を目して既に無罪とされた行為であるとはいえない。 二 物価統制令は憲法第二五条に違反しない。 三 (上告趣意第一点に対する裁判官栗山茂の少数意見)尤も物価統制令はいわゆるポツダム勅令であつて、本事実に適用されている前記罰条は日本国憲法七三条に根拠があるものではんになく昭和二〇年九月二二日連合国最高司令官総司令部の発した指令第三号に基くものであつて日本国憲法と同一法体系に属するものではないから物価統制令の前記条規が憲法二五条に反するとか反しないとかの問題を生じえないのである。論旨は違法性の前提を欠いているものであつて上告適法の理由とならない。
一 憲法第三九条にいわゆる「既に無罪とされた行為」の意義 二 物価統制令に基くうずら豆の統制額廃止と刑の廃止 三 物価統制令の合憲性 四 物価統制令と憲法第二五条
憲法39条,憲法25条,物価統制令3条,刑法6条,刑訴法337条2号,刑訴法411条5号
判旨
憲法39条の「既に無罪とされた行為」とは確定裁判により無罪とされた行為を指し、法令の改廃や社会情勢の変化により処罰の必要がなくなった場合を含まない。また、物価統制令は国民生活の安定を目的とするものであり、憲法25条に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 法令により一旦成立した犯罪について、後にその統制が廃止された場合、憲法39条の一事不再理の原則により処罰が否定されるか。2. 経済統制を定める物価統制令が、生存権を保障する憲法25条に違反し無効となるか。
規範
1. 憲法39条にいう「既に無罪とされた行為」とは、確定裁判により無罪とされた行為のみを指す。犯罪後の刑の廃止、大赦、特赦、または社会情勢の変化により処罰の必要がなくなった場合はこれに含まれない。2. 憲法25条は国に対し国民が健康で文化的な最低限度の生活を営めるよう配慮すべき責務を課したものであり、経済秩序の維持と国民生活の安定を目的とする規制は同条の精神に反しない。
重要事実
被告人は、法定の統制額を超えて販売する目的で、うずら豆154キログラムを所持していた。これにより物価統制令違反として起訴され、罰金刑に処せられた。被告人側は、物価統制令が憲法25条に反して無効であること、および、うずら豆に対する物価統制が後に廃止されたことから、本件は憲法39条の「既に無罪とされた行為」にあたり免訴されるべきであると主張して上告した。
あてはめ
1. 憲法39条の趣旨は二重の危険の禁止にあり、本件のような「法令の廃止」による事後の状況変化は、確定判決による無罪確定とは法的性質を異にする。したがって、うずら豆の統制額が廃止されたとしても、行為時に成立した犯罪の違法性が遡及的に消滅し「無罪とされた行為」に該当することはない。2. 物価統制令は、終戦後の混乱期において物価の安定を確保し、社会経済秩序を維持することで国民生活を安定させることを目的としている。これは憲法25条が予定する国の責務と整合しており、同条に抵触するものではない。
結論
1. 物価統制の廃止は憲法39条の「既に無罪とされた行為」にはあたらず、処罰は妨げられない。2. 物価統制令は憲法25条に反せず有効である。上告棄却。
実務上の射程
刑事訴訟法における「「刑の廃止」と「免訴」の関係、および憲法39条の射程を画定する際のリファレンスとなる。また、生存権(25条)を根拠とする経済統制の合憲性判断の初期判例としても重要である。ただし、刑の廃止が「反省的考慮」に基づく場合の処置については、本判決後の大審院以来の法理(判決文からは不明だが実務上の考慮要素)との整理に留意が必要である。
事件番号: 昭和26(あ)3036 / 裁判年月日: 昭和27年11月25日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】憲法25条の規定を根拠に具体的な量刑が不当であると主張することは、適法な上告理由にはあたらない。また、公訴提起後に大赦があった場合には、裁判所は免訴の言渡しをしなければならない。 第1 事案の概要:被告人が小豆、手芒、うずら豆等の取引に関して物価統制令違反の罪に問われた事案である。被告人側は、原判…