また憲法第三九条前段に「既に無罪とされた行為については刑事上の責任を問われない」というのは、所論のように行為時の法令によれば有罪であつたものが裁判時の法令に従えば無罪である行為につき刑事上の責任を問われないという趣旨ではなく、既に無罪の裁判のあつた行為については再び刑事上の責任を問われないという趣旨であるから、原判決はこの規定に抵触するところはない。論旨は、憲法第三九条前段後半を右のように解するときは、行為時の法令によれば有罪であつた行為がその後、法令の変更によつて裁判時には無罪とされる場合につき憲法の規定を欠くに至ると非難するけれども、この場合については憲法は自ら規定することなく、これを刑法、刑訴法等の法令の規定するところに委ねているものと解されるのであるから、右の非難はあたらない。
憲法第三九条前段の「既に無罪とされた行為については刑事上の責任を問われない」の法意
憲法39条,旧刑訴法363条2号
判旨
憲法39条前段の「既に無罪とされた行為」とは、既に確定した無罪判決の効力を指し、法令の改廃により裁判時に無罪となる行為を処罰することを禁じる趣旨ではない。このような限時法の失効後の処罰の可否は、憲法ではなく刑法や刑訴法等の解釈に委ねられる。
問題の所在(論点)
行為時には有罪であった行為が、裁判時の法令変更(告示の廃止)により処罰根拠を失った場合に、なお当該行為を処罰することが憲法39条前段の「既に無罪とされた行為」の処罰禁止に抵触するか。また、法令の改廃に伴う遡及的適用の制限は憲法上の要請か。
規範
憲法39条前段の「既に無罪とされた行為については刑事上の責任を問われない」との規定は、一事不再理の原則(二重処罰の禁止)を定めたものである。これは、すでになされた確定判決(無罪の裁判)がある場合を指し、行為時には有罪であったものが裁判時の法令変更により無罪とされる事態を包含するものではない。そのような法令変更に伴う処罰の可否は、憲法が直接規定するところではなく、刑法6条や刑事訴訟法等の下位法令の解釈に委ねられている。
重要事実
被告人は、りんごの販売価格の統制を定めた大蔵省告示(昭和21年7月20日第581号)の有効期間中に、当該告示の統制額を超える価格でりんごを販売した。しかし、当該行為を処罰する際の裁判時においては、右告示はすでに廃止されていた。一審および原審は、告示廃止後であっても行為時の違反行為を処罰し得ると判断して有罪を維持したが、弁護人はこれが憲法39条に違反すると主張して再上告した。
あてはめ
憲法39条前段の文言は「無罪とされた行為」であり、これは過去の裁判手続において無罪の判断が確定した事実を指すと解するのが自然である。本件のように、単に裁判時において処罰の根拠となる告示が失効しているに過ぎない状態は、過去に無罪判決を受けた状態とは明らかに異なる。したがって、行為時の法令で犯罪を構成していた以上、裁判時にその根拠法令が廃止されたとしても、憲法39条が直接その処罰を禁止するものではない。法令改廃による処罰の可否は憲法の委ねた法律問題であり、本件告示の廃止後の処罰を維持した原判決に憲法違反はない。
結論
被告人の行為は憲法39条前段に牴触せず、本件再上告は棄却される。
実務上の射程
憲法39条の解釈(一事不再理の意義)を示す重要判例である。答案上は、法令の改廃(限時法の失効)があった場合に、刑法6条(刑の軽重の比較)や刑訴法337条2号(廃止による免訴)の適用の前提として、憲法上の禁止には当たらないことを簡潔に指摘する際に用いる。また、本判決は憲法39条が二重処罰の禁止を意味することを明確にした点でも意義がある。
事件番号: 昭和24(れ)2527 / 裁判年月日: 昭和26年7月6日 / 結論: 棄却
憲法第二五条の法意は、その第一項は国家は国民一般に対して概括的に健康で文化的な最低限度の生活を営ましめる責務を負担し、これを国政の任務とすべきであること、第二項は国家はすべての生活部面について社会福祉、社会保障及びの公衆衛生の向上並びに増進のためかかる社会的施設の拡充増進に努力すべきであることを各宣言した趣旨と解すべき…