原判決の如何なる點が如何なる理由により憲法の如何なる條項に違反するかを示さない上告趣意は、憲法違反の語を用いていても、刑訴法第四〇五條にいわゆる憲法違反の主張をするものと認めることはできない。
憲法違反の語を用いても憲法違反の主張と認められない一場合
刑訴法405條
判旨
事実審裁判所による証拠の取捨選択は自由心証に委ねられており、特定の証拠を採用した理由を詳細に説明する必要はない。また、判決に計算違い等の誤りがあっても、それが結論(主文)に影響を及ぼさない程度であれば、原判決を維持することは適法である。
問題の所在(論点)
刑事訴訟において、1. 裁判所が証拠を採用する際にその理由を説明する義務があるか(自由心証主義の限界)、2. 事実認定に計算上の誤りがある場合、直ちに判決に影響を及ぼす違法となるか。
規範
1. 証拠の取捨選択は事実審裁判所の自由心証に委ねられており、特定の証拠を信じ、あるいは排除した理由をいちいち説明する必要はない。2. 判決に事実認定の誤り(計算違い等)がある場合でも、その誤りが微細であり、結論(主文)や罰金額等の法的評価に影響を及ぼさないときは、判決を破棄すべき理由とはならない。
重要事実
被告人が物価統制令に違反して、未検査の水飴340貫を統制額を超える30万円で買い受けたとして起訴された事案。第一審判決は、統制額超過額を22万1300円余と認定したが、実際には控訴趣意書が指摘するように、正しい計算によれば超過額は24万2800円であった。弁護人は、証拠採用の理由説明の欠如や、この計算誤認を理由に、原判決が第一審を維持したことの違法を主張して上告した。
あてはめ
1. 証拠の取捨については、第一審が証人の供述調書等を証拠として採用したことは自由心証の範囲内であり、理由不備の非難は当たらない。2. 計算誤りについて、第一審の認定した超過額は過少であったが、被告人が統制額を超えて買い受けたという犯罪事実に変わりはない。また、正しい計算に基づく超過額は第一審の認定より多くなり、被告人にとって不利益な修正となる。さらに、科された罰金額は正しい計算に基づいたとしても法令(物価統制令33条但書)の範囲内であり、比較的少額の誤算が主文に影響を及ぼすとは認められない。
結論
原判決が第一審判決を維持したことに違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
実務上、理由不備や事実誤認の主張に対する反論として有用。特に、些細な事実認定の誤りがあっても「主文に影響を及ぼさない」限りは控訴・上告理由にならないとする「判決に影響を及ぼすべきこと(刑訴法379条、405条等)」の判断基準として引用できる。
事件番号: 昭和26(れ)2084 / 裁判年月日: 昭和27年2月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が裁量権の範囲内で適法に行った証拠の採否や、前提となる事実の存否に関する認定は、特段の事情がない限り、上告理由となる訴訟法違反には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が鮮魚介を統制額を超過して消費地向けに委託販売し、その売得金を生産者に支払った事実が認定された。これに対し弁護人は、事実誤認…