在來の自由有料職業紹介においては營利の目的のため、條件等の如何に拘わらず、ともかく契約を成立せしめて報酬を得るため、更に進んでは多額の報酬を支拂う能力を有する資本家に奉仕するため、勞働者の能力、利害、妥當な勞働条件の獲得、維持等を顧みることなく、勞働者に不利益な契約を成立せしめた事例多く、これに基因する弊害も甚しかつたことは顕著な事實である。職業安定法は公の福祉のためこれ等弊害を除去し、各人にその能力に應じ適當な職業を與え以て職業の安定を圖らんとするもので、その目的のために從來弊害の多かつた有料職業紹介を禁じ公の機關によつて無料にそして公正に職業の紹介をすることにしたのであり決して憲法の各條項に違反するものではない。
職業安定法第三二條の合憲性
職業安定法2條,職業安定法32條,職業安定法64條,憲法13條,憲法22條
判旨
有料職業紹介の禁止を定めた職業安定法32条は、職業の安定と労働者の利益保護という公共の福祉を目的とするものであり、憲法22条1項に反しない。
問題の所在(論点)
職業安定法32条による有料職業紹介の禁止が、憲法22条1項の保障する職業選択の自由を侵害し、違憲とならないか。
規範
憲法22条1項が保障する職業選択の自由は無制限ではなく、公共の福祉による制約を受ける。規制の目的が、社会経済上の弊害を除去し、各人に能力に応じた適当な職業に就く機会を与えて職業の安定を図るという正当なものであり、その手段として公的機関による無料・公正な紹介に限定することが必要かつ合理的である場合には、当該規制は合憲である。
重要事実
職業安定法32条(当時の規定)は、原則として営利を目的とする有料職業紹介事業を禁止していた。被告人は、当該禁止規定が憲法22条(職業選択の自由)および13条(幸福追求権)に違反し、経済的自由を不当に制限するものであると主張して争った。
あてはめ
かつての自由有料職業紹介においては、営利目的のために労働条件を度外視した契約や、資本家に奉仕する不当な契約が成立し、労働者の利益が著しく損なわれる弊害が顕著であった。本規定は、このような弊害を除去し、労働者が妥当な条件で能力に応じた職業に就けるよう職業の安定を図ることを目的としている。この目的は公共の福祉に合致し、その実現のために公的機関が無料で公正な紹介を行う体制を整え、弊害の多い有料紹介を禁じることは、現在のわが国の国情において必要かつ相当な制限であるといえる。
結論
職業安定法32条は公共の福祉に基づく正当な制限であり、憲法22条1項および13条に違反しない。
実務上の射程
職業の自由に対する「消極目的規制(警察制限的規制)」に近い論理で合憲性を認めた初期の判例である。後の小売市場判決や薬局距離制限判決のような明確な違憲審査基準(二重の基準)が確立される前の判断であるが、社会的弱者保護という目的の正当性と手段の合理性を肯定する文脈で、現在でも職業の自由の制約限界を論じる際、特に労働市場の適正化を論じる場面で参照し得る。
事件番号: 昭和55(あ)811 / 裁判年月日: 昭和57年6月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】職業安定法における有料職業紹介事業の許可制および無許可営業に対する罰則規定は、憲法22条1項の職業選択の自由および憲法27条に違反しない。公共の福祉に基づく正当な目的による合理的かつ必要な制限であるとした従前の判例を維持した。 第1 事案の概要:被告人は、職業安定法32条1項(当時の規定)に基づく…