元來一時不再理の原則は、何人も同じ犯行について、二度以上罪の有無に關する裁判を受ける危險に曝さるべきものではないという根本思想に基くことは言うをまたぬ。そして、その危險とは、同一の事件においては、訴訟手續の開始から終末に至るまでの一つの繼續的状態と見るを相當とする。されば、一審の手續も控訴審の手續もまた、上告審のそれも同じ事件においては、繼續せる一つの危險の各部分たるにすぎないのである。從つて同じ事件においては、いかなる段階においても唯一の危險があるのみであつて、そこには二重危險(ダブル、ジエバーディ)ないし二度危險(ワイス、ジエバーディ)というものは存在しない。それ故に、下級審における無罪又は有罪判決に對し、檢察官が上訴をなし有罪又はより重き刑の判決を求めることは、被告人を二重の危險に曝すものでもなく、從つてまた憲法第三九條に違反して重ねて刑事上の責任を問うものでもないと言わなければならぬ。
一事不再理の原則――檢察官の上訴と憲法第三九條にいわゆる「二重の危險」
憲法39條,刑訴法351條
判旨
憲法39条の一事不再理の原則が禁ずる「二重の危険」とは、同一事件の訴訟開始から終末までの一つの継続的状態を指す。したがって、検察官の上訴により上級審で被告人の不利益な判決を求めることは、二重の危険に曝すものではなく、同条に違反しない。
問題の所在(論点)
検察官が被告人の不利益に上訴をなし、有罪またはより重い刑の判決を求めることが、憲法39条の「既に無罪とされた行為については刑事上の責任を問はれない」および「同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問はれない」という規定(一事不再理・二重危険の禁止)に違反するか。
規範
憲法39条が定める一事不再理の原則の基礎となる「危険」とは、同一の事件においては、訴訟手続の開始から終末に至るまでの一つの継続的状態と見るのが相当である。第一審、控訴審、上告審の各手続は、同じ事件における継続せる一つの危険の各部分を構成するにすぎない。したがって、同一事件の継続中はいかなる段階においても唯一の危険があるのみであり、判決が確定する前であれば、検察官が被告人の不利益に上訴し、有罪またはより重い刑を求めることは、憲法39条が禁ずる「二重の危険(ダブル・ジェパディ)」には該当しない。
事件番号: 昭和24新(れ)5 / 裁判年月日: 昭和24年7月22日 / 結論: 棄却
一 上告趣意書に記載された上告申立の理由が明らかに刑訴第四〇五条各号に定める事由に該当しないときは、同法第四一四条に則り、同法第三八六条第一項第三号を準用し決定で上告を棄却すべきものである。 二 上告の申立は刑訴第四〇五條に定めてある事由があることを理由とするときにこれを爲すことができるものであつて、同法第四一一條は上…
重要事実
被告人の事件に対し、検察官が第一審または第二審の判決を不服として、被告人に不利益な(有罪またはより重い刑を求める)上訴を申し立てた事案。弁護人は、このような検察官による被告人に不利益な上訴制度は、英米法上の二重危険の原則を採用した憲法39条に違反し、被告人を重ねて刑事上の責任に曝すものであるとして上告した。
あてはめ
一事不再理の原則の趣旨は、同一犯行について二度以上裁判を受ける危険に曝さない点にある。本件において、刑事訴訟の手続は、第一審から上告審に至るまで、同一事件の解決を目指す一連の継続的な過程であるといえる。そうであるならば、検察官が上訴を申し立てたとしても、それは一つの「継続せる危険」の内にあるといえ、新たな(二度目の)危険を創出するものとは評価できない。よって、検察官の上訴により被告人が不利益を被る可能性があるとしても、それは依然として最初の訴訟手続の枠内にあり、憲法が禁止する二重の問責にはあたらないと解される。
結論
検察官による被告人に不利益な上訴制度は憲法39条に違反しない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
刑事手続の「一連性」を重視する継続的危険説(一継続危険説)の立場を明示したリーディングケースである。憲法39条違反の主張に対する定石的な反論として用いる。ただし、判決確定後の「不利益な再審」が認められない根拠については、補足意見により見解が分かれている点に留意が必要である。
事件番号: 昭和25(あ)3450 / 裁判年月日: 昭和26年2月22日 / 結論: 棄却
一 原判決の確定しない事実関係を前提とする判例違反又は憲法違反の主張は、刑訴第四〇五条に定める上告適法の事由に該当しない。 二 一審が犯罪の証明がないという理由で無罪とした事実について、第二審が事実の取調をしないで刑訴第四〇〇条但書に従い有罪の判決をすることは、適法である。 三 しかし、本件起訴にかかる訴因は、第一、第…
事件番号: 昭和26(あ)1768 / 裁判年月日: 昭和26年7月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】昭和22年勅令第1号15条1項にいう「政治上の活動」とは、現実の政治に直接又は間接の影響を及ぼすものと認められるような行動を指す。また、憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、裁判所の組織や構成において偏頗の恐れがないことを意味する。 第1 事案の概要:被告人が昭和22年勅令第1号(公職に関する就職…
事件番号: 昭和26(あ)761 / 裁判年月日: 昭和26年4月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙運動とは、特定の選挙につき、特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために直接または間接に有利な影響を与える行為をいう。本件では、被告人の行為が当該定義に該当し、公職選挙法等による制限の対象となることが示された。 第1 事案の概要:被告人は、昭和22年勅令第1号第15条第1項(当…
事件番号: 昭和25(あ)3393 / 裁判年月日: 昭和26年4月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧警察法上の政治活動の禁止に関し、本人の主観的な政治活動の意思の有無にかかわらず、現実の政治に影響を与えるような行動は政治活動に該当すると判断した。 第1 事案の概要:被告人が特定の行為(具体的な行為内容は判決文からは不明)を行い、これが当時の警察法等により禁止されていた「政治活動」に該当するかが…