一 原判決の事實摘示と證據説明を對照して判斷すると原判決は被告人A等がB及びC炭坑へ列車を運轉して往つた際機關車に焚く石炭が不足したので山元において、緊急措置としてテンダーに石炭を補給して貰つたのであるが、そのため業務終つてD機關區に歸つたところ、テンダーになお石炭の残餘があつたので、これを擅に取り下し、處分した事實を認定すると共に、他方において當時被告人A等はその運轉して往つた機關車のテンダーに約六〇頓の石炭を積んでいつたもので、山元においてはなお三〇頓前後の石炭が残つていたものと推認した上、論旨摘録の如き混和の理論により山元で補給された石炭の所有權は全部運輸省に歸屬したものとなし、從つて、判示石炭の全部又は一部が被告人の辯解の如く、山元で補給された石炭であると否とを問はず、これを前記の如く、擅に取出し處分した以上判示の如く運輸省所有の石炭を窃取したことになると認定した趣旨であることがわかる。しかし、我が國に現存する國鐡使用のテンダーの石炭積載量 その最大のもので、約一二頓であり、北海道の炭鑛方面において使用されるものは、遙かにそれ以下のものであることは公知の事實である。從つて、原判決が本件機關車のテンダーの石炭積載量及び前記山元における残量をそれぞれ六〇頓及び三〇頓内外であると推認し、これを基礎として論旨摘録の如き混和の理論により山元で補給された石炭の所有權は全部運輸省に歸屬したものと判示したことはその根據において、實驗に反則するものと云わなければならない。 二 いわゆる自給塩とは塩專賣臨時特例(昭和二〇年一二月二九日勅令第七二九號)によつて、一般にその製造を許されたものであつて、右特例第三條により之を所有し、所持し、費消し又は讓渡することができるのであるが、それは専ら自給用に供せしめる趣旨であるから讓渡に關しては特に「命令に定めるところに依り」との制限が置かれており塩専專賣法臨時特例施行規則(前同日大藏省令第一一五號)第三條には自給塩の讓渡はそれを製造したものがその製造した塩に限り、讓渡することを得る旨規定されているに止まり、讓渡を受けたものが更にこれを轉賣することは許されていない。しかも製造者と雖も、その製造した自給塩を讓渡するにあたつては所轄專賣官署において、讓渡先、數量、價格其の他讓渡に關し爲すことであるべき必要な指示に從わねばならぬことになつている。從つて自給塩と雖も、讓受人が更にこれを他に轉賣したり、生産者が所轄專賣官署の指示に反して讓渡することは許されない。從つて、かかる場合のため特に統制額が定められていないことは固より所論のとおりである。さればこそ自給塩を讓り受けた者が更に違法にこれを轉賣する場合においては(自給塩を製造した者が自ら讓渡する場合は暫く措き)塩專賣法及び塩賣捌規則の定める販賣價額がその統制額となるものと云わなければならない。
一 事實認定が實驗則に違反する一例 二 いわゆる自給塩の讓渡と自給塩を讓り受けた者が更にこれを轉賣する場合の統制額
舊刑訴法336條,舊刑訴法337條,塩専賣臨時特定(昭和20年12月29日勅令729號)2條3條物價統制令(昭和24年5月31日法律164號による改正前のもの)7條,物價統制令施行規則(昭和24年5月31日総理庁令28號による改正前のもの)8條
判旨
窃盗罪が成立するためには、他人の占有を排除して自己の占有に移すという客観的行為に加え、権利者を排除して他人の財物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用・処分する意思(不法領得の意思)が必要であるが、後日返還する意思があっても、一時融通の範囲を超えて自己の家庭用等に供する意思があるならば、犯意(不法領得の意思)の成立を妨げない。
事件番号: 昭和25(れ)1857 / 裁判年月日: 昭和26年4月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が実質的に量刑不当の主張に帰する場合、刑事訴訟法応急措置法13条2項に基づき、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が刑事裁判の判決に対して上告を申し立てた。弁護人は上告趣意書を提出したが、その内容は原判決の刑の重さを不服とするものであった。これに対し、上告裁判所において…
問題の所在(論点)
他人の占有下にある財物を、後で返還するつもりで一時的に持ち出し、自己の家庭用に供した場合に、窃盗罪の犯意(不法領得の意思)が認められるか。
規範
窃盗罪における不法領得の意思は、権利者を排除して他人の財物を自己の所有物として、その経済的用法に従い利用し又は処分する意思をいう。一時的な使用の意図(使用窃盗)であっても、その目的や態様が財物の経済的価値を享受し、または権利者の権利を侵害する程度に至るものであれば、不法領得の意思が認められる。また、後に同種の物や価値を返還する主観的な意図があったとしても、そのことのみをもって直ちに犯意の成立が否定されるものではない。
重要事実
被告人Eは、運輸省(当時)が所有するD保線区貯炭場に保管されていた石炭を、自己の家庭用として消費するために勝手に持ち出した。これに対し被告人側は、当該石炭の持ち出しは後日返還する意思に基づく「一時融通」にすぎず、窃盗罪の犯意を欠くものであると主張して上告した。
あてはめ
被告人Eは、他人が所有・管理する石炭を「家庭用に勝手に持って来た」ものであり、これは石炭という財物が持つ本来の経済的用法(燃料としての消費)に従い、所有者である運輸省を排除して自己の所有物として振る舞う意思の表れといえる。たとえ被告人に「後日返還する意思」があったと仮定しても、財物そのものを消費・処分する目的で占有を移転させている以上、その経済的価値を領得する意思は明白である。したがって、一時的な借り入れ(融通)という弁解は、成立した不法領得の意思を否定するに足りない。
結論
被告人の行為には窃盗罪の犯意が認められ、有罪とした原判決は正当である。上告棄却。
実務上の射程
司法試験等の答案においては、不法領得の意思の二要素(排除意思・利用処分意思)のうち、特に「利用処分意思」を肯定する文脈で活用できる。本判例は、いわゆる「使用窃盗」の限界事例において、返還意思の有無よりも、その時点での利用態様が所有者同様の振る舞いといえるかを重視する立場を示している。答案では「一時使用の意図があっても、財物の性質・用法に照らし経済的価値を享受する意思があれば足りる」と論証する際の根拠となる。
事件番号: 昭和25(あ)442 / 裁判年月日: 昭和26年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反の罪が成立するためには、代金が不当に高価な額であることの認識があれば足り、統制額を具体的な数字によって認識している必要はない。 第1 事案の概要:被告人は、物価統制令の定めに反し、不当に高価な額で物件を買い受けたとして、同令9条の2、34条違反に問われた。これに対し、被告人は、物件の…
事件番号: 昭和24(れ)2400 / 裁判年月日: 昭和26年1月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共同被告人の関係にあり、かつ敵対関係にある者の証言であっても、当然に証拠能力を欠くものではなく、その証明力の判断は裁判所の合理的な裁量に委ねられる。また、公判期日の間隔が15日を超えても、刑事訴訟規則の定める事由に該当する場合には、審理の更新手続を要しない。 第1 事案の概要:被告人らは窃盗罪に問…
事件番号: 昭和24(れ)1265 / 裁判年月日: 昭和25年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における「自己の占有」は、他人の財物を保管する原因となった契約関係の変動に関わらず、実質的に占有が継続していれば成立する。また、担保権者であっても法定の手続きによらずに担保物を任意処分することは、法令や正当な慣習がない限り不法領得の意思を阻害しない。 第1 事案の概要:被告人は、寄託契約また…