一 市長により任命され市統計課で市の統計事務に従事する市雇は、公務員である。 二 刑法第九五条の公務執行妨害罪の要件たる暴行脅迫は、これにより現実に職務執行妨害の結果が発生したことを必要とするものではなく、妨害となるべきものであれば足りる。
一 市の雇と公務員 二 公務執行妨害罪における暴行脅迫と結果発生の要否
刑法7条,刑法95条
判旨
刑法上の公務員とは、国家または公共団体の機関として公務に従事し、その公務従事の関係が任命・嘱託・選挙等の方法を問わず法令に根拠を有する者をいい、職務の実質の軽重は本罪の成否に影響しない。
問題の所在(論点)
公共団体の「雇員」が刑法上の「公務員」に該当するか。また、公務の実質の軽重が公務執行妨害罪の成否に影響するか。さらに、現実に職務執行を妨害した結果が発生する必要があるか。
規範
刑法7条にいう「公務員」とは、国家または公共団体の機関として公務に従事する者であり、その公務従事の関係が任命、嘱託、選挙等その方法を問わず、法令に根拠を有する者を指す。また、刑法95条1項の「職務を執行するに当たり」とは、公務員がその職務を現に行っている最中であることをいい、本罪は暴行・脅迫をもって足りる抽象的危険犯であるため、現実に職務執行を妨害した結果が発生することは不要である。
重要事実
坂出市の統計課で統計事務に従事していた雇員Aに対し、被告人が文句を言い、Aが仕事を再開しようとしたところ、被告人が「出てこい」と言って暴行を加えた。Aは旧市制に基づく「市吏員定員規程」により任命された雇員であったが、犯行当時は地方自治法が施行されており、同法の経過措置及び同法に基づく条例等により、Aの地位は法令に根拠を有するものであった。
あてはめ
Aは公共団体である坂出市の機関として統計事務という公務に従事しており、その任命は地方自治法附則や市条例等の「法令」に基づき適法になされている。したがって、Aは法令により公務に従事する職員にあたる。職務の実質の軽重は犯情に影響しうるものの、公務員としての適格性を左右しない。また、被告人はAが統計事務に従事中に暴行を加えており、職務執行中に妨害となるべき行為をしたといえる。
結論
被告人の行為は公務執行妨害罪(刑法95条1項)を構成する。雇員Aは公務員に該当し、現実に妨害結果が生じなくても、職務執行中に暴行を加えれば同罪は成立する。
実務上の射程
公務員定義の広汎性を確認した重要判例である。自治体の非正規職員や補助的業務に従事する者であっても、法令に基づく任用関係があれば公務員に含まれる。答案上は、公務執行妨害罪の客体適格や、結果発生が不要な抽象的危険犯であることを論証する際に引用すべきである。
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【結論(判旨の要点)】刑法95条の公務執行妨害罪は、公務員個人を特別に保護するものではなく、公務員によって執行される公務そのものを保護法益とするものである。 第1 事案の概要:被告人らは、公務員の職務執行に際して暴行または脅迫を加えたとして、公務執行妨害罪等の刑責を問われた。これに対し弁護側は、同罪が公務員を不当に優遇…