一 原審第七回公判において原審は被告人Aに対する弁論を分離したことは所論のとおりである。そして第九回公判において被告人Aに対する弁論を終結したのであるが原審は右分離した事件を再び併合して判決したものであることは原判決前文において併合して判決すると判示していることから明らかである。裁判所は職権によつて弁論の分離併合が出来るのであるから原審が前示のように分離した事件を併合して判決することは何等違法の点なく論旨は理由がない。 二 原判決は所論押収に係るモルヒネ注射液五十本入二箱(昭和二二年証第八十七条号の一)の存在を他の証拠と綜合して原判示第一の(一)及び(ニ)の犯罪事実を認定したものであることは判文上明らかであることは判文上明らかである。ところが原審公判調書を調べてみると原審公判廷において右証拠物について証拠調をした記載がないのであるから原審はその証拠調をしなかつたものというべく従つて原判決は証拠調をしない証拠を断罪の資料に供した違法がありその違法は判決に影響を及ぼすものと言わねばならない。 三 刑訴応急措置法においては聴取書と訊問調書との区別を撤廃し両者ともに供述を録取した書類として一定の条件の下にその証拠能力を認めこれが採否は一に裁判官の自由心証に委せられたのである(同第一二条参照)。それゆえに所論被告人に対する司法警察官の訊問調書がたとえ事件を検察官に送致した後に作成されたものであつて作成者たる司法警察官が訊問なし得ないにかかわらず作成したものであつたとしても訊問が直ちに供述を強制したものとはいえないのであるからその訊問調書は聴取書と同様供述を録取した書類として証拠能力があるものといわなければならない。 四 しかし麻薬取締規則第四二条には「次に掲げる者以外の者は麻薬を所有又は所持することができない」と規定しているのであつて右の麻薬というのは正規の手続を経た論旨の所謂調録された麻薬のみを指すのではなく正規の手続を経ない所謂登録の麻薬をも包含するものと解するを相当とする。然らば原判決が同規則施行前に被告人が取得した麻薬について同規則を適用してその麻薬の所持を処罰したことは正当である。 五 原審共同被告人B、A、Cについて原審が証拠調をしない証拠を採証した違法があるとしても被告人の原判示の犯罪事実は挙示の証拠のみで十分認定できるのでありその証拠のうちには証拠調をしない証拠は採用されていないのであるから、かかる場所には旧刑訴第四五一条にいわゆる「破棄の理由が上告を為したる共同被告人に共通なるとき」に該当しないものと解すべきである。
一 分離して結審した事件を併合して判決することの適否 二 証拠調を経ないで証拠に採つた判決の違法 三 司法警察官が事件を検察官に送致した後に作成した被告人に対する訊問調書の証拠能力 四 麻薬取締規則第四二条所定の麻薬はいわゆる無登録の麻薬を含むか 五 共同被告人についての採証の違法と破棄理由の共通
旧刑訴法349条,旧刑訴法336条,旧刑訴法127条,旧刑訴法254条,旧刑訴法451条,刑訴法313条1項,刑訴応急措置法8条4号,刑訴応急措置法12条,麻薬取締規則(昭和21年厚生省令25号)42条
判旨
証拠調をしていない証拠を断罪の資料に供することは、判決に影響を及ぼすべき違法な手続である。また、司法警察官が送致後に作成した供述録取書類であっても、直ちに供述を強制したものとはいえず、一定の条件の下で証拠能力が認められる。
問題の所在(論点)
事件番号: 昭和25(あ)2456 / 裁判年月日: 昭和27年3月25日 / 結論: 棄却
一 判決の証拠説明において証拠能力のない書面を挙げていても、それが他の証拠能力のある供述書に引用せられており、その内容を補足する趣旨のものに過ぎないときは、違法ではない。 二 右の場合、供述書の証拠調の方法としては、これを朗読する外引用せられた書面を朗読すれば足り、これを示す必要はない。
1. 公判廷で証拠調べが行われていない証拠を判決の基礎とすることの可否。2. 送致後に司法警察官が作成した供述録取書類や、黙秘権告知を欠く調書の証拠能力。
規範
裁判所が特定の証拠を犯罪事実の認定に用いるためには、適法な証拠調べを経ることを要する。一方、供述録取書類の証拠能力については、作成者が取調権限のない司法警察官であったとしても、新憲法下では黙秘権が保障されているため、直ちに不当な強制があったとはみなされず、供述者の供述を録取した書類(聴取書)として証拠能力を認め得る。
重要事実
被告人Bにつき、原審は押収されたモルヒネ注射液の存在を他の証拠と総合して犯罪事実を認定したが、公判記録上、当該証拠物について証拠調べをした記載がなかった。また、被告人Fにつき、司法警察官が事件を検察官に送致した後に作成した第2回訊問調書が証拠として採用された。F側は、権限のない者による作成であり、かつ黙秘権の告知もなかったとして、その証拠能力を争った。
あてはめ
1. 被告人Bに関しては、判決文から明らかな通り、原審は公判廷で証拠調べをしていない証拠(モルヒネ)を断罪の資料に供しており、これは判決に影響を及ぼすべき違法がある。2. 被告人Fに関しては、送致後で司法警察官に訊問権がない状況であっても、作成された書類は実質的に「供述を録取した書類」としての性格を有する。新憲法下では被告人はいつでも黙秘権を行使できるため、権限外の作成であっても直ちに強制された供述とはいえず、証拠能力を否定すべき理由はない。黙秘権の告知欠如も憲法違反とはならない。
結論
被告人Bについては、証拠調べを経ていない証拠を採証した違法があるため原判決を破棄し差戻す。被告人Fらについては、証拠能力の判断に誤りはなく上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法における証拠裁判主義の徹底(適法な証拠調べの必要性)を示すとともに、捜査機関の権限外の活動により得られた供述書類であっても、任意性が否定されない限り証拠能力を認め得るという実務上の柔軟な解釈を提示している。
事件番号: 昭和26(あ)3179 / 裁判年月日: 昭和28年6月19日 / 結論: 棄却
一 共同被告人の検察官に対する供述調書は、被告人との関係においては、刑訴第三二一条第一項第三号にいわゆる被告人以外の者の供述を録取した書面に該当する。 二 共同被告人の麻薬司法警察官(麻薬統制主事)に対する供述調書は、被告人との関係においては、刑訴第三二一条第一項第三号にいわゆる被告人以外の者の供述を録取した書面に該当…
事件番号: 昭和26(あ)2234 / 裁判年月日: 昭和26年11月15日 / 結論: 棄却
そして原審では心身喪失の主張がなされたけれども所論の心身耗弱の主張はなされていないから、喪失の点について判断を与えた以上耗弱の点について判示しないからといつて、原判決に判断遺脱の違法ありとはいえない。
事件番号: 昭和26(あ)1263 / 裁判年月日: 昭和27年7月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法405条の上告理由に該当しない独自の主張や、原判決の事実誤認を争う主張は上告理由として認められず、職権調査の必要性がない限り棄却される。 第1 事案の概要:上告人は、第一審判決が「虚無の証拠」によって犯罪事実を認定したという新たな事実を主張し、これを看過した原判決には憲法違反があるとして…