一 昭和二二年五月商工省令第一八號は基本法たる臨時物資需給調整法に基き且つ配炭公團法の規定に從い配炭公團法に定める配炭公團の石炭等の一手買取業務に對應してその第一條に配炭公團への賣渡義務を規定しまた配炭公團の一手賣渡業務に對應してその第三條に配炭公團以外の者は石炭等を販賣してはならない旨を規定したものであつてその規定は臨時物資需給調整法第一條第一項第一號に基く必要な命令であり同時に配炭公團法第一六條第三項による必要な事項の定めであることは明らかであるから所論商工省令第三條の規定は正に法律の委任の範圍内に屬する事項を定めたものである。從つて右省令の規定が法律の認めないことを定めたものであると主張する論旨はその理由がない。 二 憲法第二二條にいわゆる職業選擇の自由は無制限に認められるものではない、公共の福祉の要請がある限りその自由は制限されるものである。石炭等が戰後産業の回復及び振興に關して重要資材でありその割當又は配給統制が公共福祉の要請であることは論を俟たないところである。さればこそ一方臨時物資需給調整法に基く指定生産資材割當規則を定めいわゆるクーポン(割當證明書)制により公正な分配を確保すると共に他方配炭公團法を制定して配炭公團に一手買取一手販賣の業務を課したものである。そして商工省令第三條の規定は前段説明の如く配炭公團の一手販賣の業務に對應して公團以外の者の販賣權を制限したもので正に石炭等の適正配給という公共の福祉を維持するため必要な制限であるといわなければならない。從つて商工省令第三條の規定は毫も憲法第二二條に違反するものではない。 三 被告人が販賣の目的で本件石炭を窃取したとしても窃取ということは配炭公團以外の者が石炭等を販賣してはならないという本件商工省令第三條違反の所爲について通常用いられる手段とはいい得ないから兩者は法律上手段結果の關係にあるということはできない、また原審は本件石炭の販賣行爲を窃取行爲と認定したものではなく販賣行爲とは別個に窃取行爲が成立したものと認定しているのであるから右二つの行爲が一所爲數法の關係に立つものということはできない、然らば原判決が判示第一事實と第二事實を併合罪として處斷したことは正常である。 四 論旨は罰金は財産のある者は何の苦痛もなく支拂えるが財産のない者は罰金が支拂えない結果勞役場に留置せられる、財産のある者と財産のない者との間にかくの如き差別待遇をすることは法律が國民に對し不平等な取扱いをすることである。それゆえ、無産者に對しても有産者に對すると同額の罰金刑を科することを許し罰金が拂えなければ勞役場に留置することを許す刑法第一八條の規定は憲法第一四條に違反するものであると主張する。しかし憲法第一四條の規定する平等の原則は前段説明の如く法的平等の原則を示しているのであるが各人には經濟的、社會的その他種々な事實的差異が現存するのであるから一般法規の制定又はその適用においてその事實的差異から生ずる不均等があることは兔れ難いところである。そしてこの不均等が一般社會観念上合理的な根據のある場合には平等の原則に違反するものとはいえないのである。
一 臨時物資需給調整法に基く商工省令第一八號第三條は法律の委任の範圍に屬するか 二 昭和二二年五月商工省令第一八號第三條の合憲性(憲法第二二條) 三 昭和二二年五月商工省第一八號第三條違反の販賣行爲と窃取行爲との間には併合罪の關係があり牽連關係は存しない 四 罰金不納の場合の勞役場留置を規定した刑法第一八條の合憲性(憲法第一四條)
臨時物資需給調整法1條1項1號,昭和22年商工省令18號3條,配給公團法16條3項,憲法22條,憲法14條,昭和22年5月商工省令18號3條,刑法235條,刑法45條,刑法54條1項,刑法18條
判旨
憲法14条1項の平等原則は法的な平等を意味し、事実上の不均等があっても合理的根拠があれば違反しない。罰金刑が貧富により受刑者の受ける苦痛に差異を生じさせるとしても、社会秩序維持という目的から合理的根拠があるため合憲である。
事件番号: 昭和25(あ)450 / 裁判年月日: 昭和25年12月26日 / 結論: 棄却
刑訴第四〇五条第二号又は第三号に基き、原判決が判例と相反する判断をしたことを理由として上告の申立をする場合には、上告趣意書にその判例を具体的に示さなければならない(刑事訴訟規則第二五三条)にもかかわらず、論旨は原判決が如何なる判例に違背したかを具体的に示していないから、これを適当な上告理由と認めるいとはできない
問題の所在(論点)
1. 経済的能力の差により罰金刑から生じる事実上の不利益の差異は、憲法14条1項の法の下の平等に反するか。2. 重要物資の配給統制を目的とする販売禁止規定は、憲法22条1項の職業選択の自由(営業の自由)を侵害するか。
規範
憲法14条が規定する平等の原則は、法的平等の原則を意味する。各人には経済的・社会的等の事実的差異が現存するため、法規の適用において事実上の不均等が生じることは免れ難い。したがって、その不均等が一般社会観念上合理的な根拠のある場合には、平等の原則に違反しない。また、職業選択の自由(憲法22条1項)も無制限ではなく、公共の福祉の要請がある限り制限される。
重要事実
被告人は、配炭公団以外の者が石炭等を販売することを禁止した商工省令3条(臨時物資需給調整法及び配炭公団法に基づく)に違反して石炭を窃取・販売した。被告人は、罰金刑が財産のない者に対し労役場留置という事実上の差別を生じさせる点で憲法14条に違反し、また省令の販売制限が憲法22条に違反すると主張して上告した。
あてはめ
1. 罰金刑は貧富により効果に差異が生じる弱点はあるが、刑罰として一定の効果を挙げ得る。執行猶予や仮出場の制度により不均等も緩和され得る。この差異は社会秩序維持という大局から見てやむを得ず、合理的根拠がある。2. 石炭は戦後復興の重要資材であり、その公正な分配を確保する配給統制は公共の福祉の要請に合致する。省令による販売権の制限は、公共の福祉を維持するため必要な制限といえる。
結論
罰金刑および本件省令の規定は、憲法14条1項および22条1項に違反しない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
平等原則における「事実上の平等」と「法的平等」を区別し、合理的な根拠に基づく差異を許容する枠組みを示す。経済的格差を理由とする違憲主張に対する反論として有用。また、職業選択の自由(消極目的規制)の初期判例としても参照される。
事件番号: 昭和26(あ)3347 / 裁判年月日: 昭和27年11月11日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】罰金を完納できない者に対し労役場留置を科す刑法18条の規定は、経済的理由による差別を禁ずる憲法14条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、食品衛生法違反、臨時物資需給調整法違反、および物価統制令違反の事実に問われた。一審判決および原判決を経て上告されたが、被告人側は、罰金の不払に対して労役場…
事件番号: 昭和27(あ)114 / 裁判年月日: 昭和28年6月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共同被告人間に刑の軽重の差が生じても、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の情状及び犯後の情況等を斟酌した結果であれば、憲法14条の法の下の平等に違反しない。 第1 事案の概要:共同被告人として起訴された被告人らに対し、原審は実刑を言い渡した。これに対し被告人側は、他の被告人との比較において刑の量定に差が…