一 所論の書類は、何れも上申書であつて旧刑訴第三四〇条にいわゆる証拠書類には当らないばかりでなく、たとえ証拠書類であるとしても公判廷で被告人の弁護機関である弁護人が提出し、裁判所及び検察官の閲覧を経た証拠書類については特に必要のある場合を除くの外、必ずしもこれを被告人に読み聞かせ又は示してその意見、弁解を求める必要のないことは判例の示すとおりである。 二 所論は、原審で弁護人が従犯であると主張したのに対し、原判決はその判断を遺脱した違法があるというのである。しかし、従犯であるとの主張は、共同正犯の起訴事実に対しては単なる否認の一種であつて旧刑訴法第三六〇条第二項に定める主張に当らない。
一 上申書は証拠書類にあたらない―――公判廷で弁護人の提出した証拠書類の証拠調の方法 二 従犯であるとの主張と旧刑訴法第三六〇条第二項
旧刑訴法340条,旧刑訴法347条1項,旧刑訴法360条2項,刑法62条
判旨
共謀に基づく実行行為が認められる場合、従犯ではなく共同正犯としての責任を負う。また、共同正犯の起訴事実に対し従犯である旨を主張することは単なる否認にすぎず、裁判所が判決で特段の判断を示すべき事項には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 共謀に基づく犯行における共同正犯と従犯の区別。2. 共同正犯として起訴された事実に対し、従犯であると主張することが、裁判所が判決で判断を明示すべき「法律上の主張」に該当するか。
規範
1. 二人以上の者が共謀に基づき犯罪を実行した場合には、実行行為の一部を分担したか否かにかかわらず、その全員が共同正犯としての責任を負う。2. 共同正犯の起訴事実に対して、自己は正犯ではなく従犯にすぎないとする主張は、犯罪事実の成立を否定する単なる否認の主張(事実に対する主張)であり、判決に理由を付すべき法律上の主張には当たらない。
重要事実
被告人Aは、他の3名と共謀の上、犯罪行為に及んだとして共同正犯の事実で起訴された。原審は、掲げられた証拠に基づき、被告人が他の共犯者らと共謀して犯行を行った事実を認定し、共同正犯の成立を認めた。これに対し、被告人側の弁護人は、被告人の関与は従属的なものであり正犯ではなく従犯にすぎないと主張した。また、原審がこの従犯の主張に対して判決で明示的な判断を遺脱したことは、当時の刑事訴訟法(旧刑訴法360条2項)に違反するとして上告した。
あてはめ
被告人Aが他の3名と共謀の上で犯行に及んだという事実が原審において証拠に基づき認定されている以上、判例の法理に照らし、被告人を共同正犯と認めることは正当である。また、弁護人が主張する「従犯である」との旨は、検察官が主張する共同正犯の事実を一部否定する性質のものであり、証拠によって認定された犯罪事実に対する単なる否認の一種である。したがって、判決においてこれに対する判断を個別に遺脱したとしても、理由不備の違法があるとはいえない。
結論
被告人が共謀の上で犯行を行った以上、共同正犯が成立する。また、従犯の主張は単なる否認であり、これに特段の判断を示さず共同正犯を認定した原判決に違法はない。
実務上の射程
共謀共同正犯の成否が争われる事案において、正犯性と従犯性を区別する際の基礎的な判断枠組みとして機能する。特に、弁護側の従犯主張に対し、裁判所が別箇に判断を示す必要がない(共同正犯の認定をもって排斥されたとみなせる)とする実務上の処理を裏付けるものである。
事件番号: 昭和25(あ)2500 / 裁判年月日: 昭和28年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】数人が共同して犯罪の実行を謀議し、共謀者の一部がその実行行為に及んだ場合、実行行為を分担しなかった者も共謀共同正犯として刑責を負う。 第1 事案の概要:被告人は他の者らと数人で犯罪の実行を謀議した。その後、共謀者の一部の者が実際の実行行為に及んだが、被告人自身はその実行行為を直接分担しなかった。弁…