一 衆議院議員選舉法第一一四條は、當選を得る目的をもつて、選舉人又は選舉運動者に對し金錢その他の財産上の利益が供與せられた場合について「收受シ……タル利益ハ之ヲ没收ス」と規定しているのであつて、同條は「利益收受者」に對する刑として没收刑を規定しているのである。しかるに、原判決が没收を言渡した押收の金八〇〇圓は被告人が判示第一の(三)の事實によりAに供與した一〇〇〇圓の内同人が消費せずに持つていたものであることは記録上明かであつて、被告人は右金員についての「利益收受者」ではなくまた「利益收受者」Aは本件の被告人ではないから、本件において、同條によつて、右金員を没收する途のないことは當然である。しかも右金員は、判示第一の(三)のごとく同法第一一二條所定の利益供與罪を組成する物であることは疑を容れないところであるから、右金員が被告人及びその共犯者以外の者に屬しない以上(しかして、このことはまた記録上明らかである)刑法第一九條に從つてこれを没收することができるものといわなければならない。從つて原判決が衆議院議員選舉法第一一四條に依らず、刑法第一九條に從つて右金員を没收したことは正當であつて、論旨は理由がない。 二 所論聽取書については、既に第一審公判において被告人に對しその供述者たるBを訊問する機會は適法に與えられたものといわなければならない。けだし、被告人は公判期日において裁判長に告げ共同被告人を直接訊問する權利を有することは、刑訴應急措置法第一一條第二項に規定するところであるのみならず、第一審公判においては、右書類の證據調に際し、特に被告人に對し、右書類の供述者を訊問できることを判事から告げられているからである。しかして、既に第一審において、供述者訊問の機會を與えられている以上、重ねて第二審においてその機會を與えることは、同法第一二條の要求するところでないと解すべきであるから、原判決が右聽取書を證據としたことをもつて、所論のごとき違法があるものとはいえない。
一 自己の當選を得る目的で供與した金錢と刑法第一九條による没收 二 第二審で被告人から訊問請求のあつた聽取書の供述者が第一審公判廷で共に審理を受けた相被告人である場合と刑訴應究措置法第一二條第一項
衆議院議員選舉法114條,刑法19條,刑訴應急措置法12條
判旨
第一審で共同被告人であった者の供述録取書について、証拠調べの際、被告人に反対尋問の機会が適法に与えられていたならば、控訴審で重ねてその機会を与える必要はなく、当該書面を証拠とすることは憲法37条2項に反しない。
問題の所在(論点)
第一審で共同被告人であった者の供述録取書について、第一審で尋問の機会が与えられていた場合、控訴審において再度尋問の機会を与えることなく当該書面を証拠として採用することは、被告人の証人審問権(憲法37条2項)を侵害し、違憲とならないか。
規範
憲法37条2項の保障する証人審問権は、被告人に対し供述者を尋問する機会が適法に一度与えられれば足りる。したがって、第一審の公判期日において、共同被告人の供述書につき証拠調べが行われ、裁判所から当該供述者の尋問が可能である旨告知されたにもかかわらず被告人がこれを放棄した場合には、既に十分な尋問の機会が与えられたものと解すべきであり、控訴審において再度その機会を与える必要はない。
重要事実
被告人は選挙法違反の罪で起訴された。第一審において、被告人の共同被告人であったBに対する司法警察官作成の聴取書について証拠調べが行われた。その際、裁判長は被告人に対し、右書類の供述者であるBを尋問できる旨を告知したが、被告人はこれに対し「(尋問の必要は)なし」と答えた。その後、控訴審において被告人側はBの証人喚問を請求したが、原審(控訴審)はこれを却下した上で、第一審で調べたBの聴取書を事実認定の証拠として用いて有罪判決を維持した。
あてはめ
本件において、Bは第一審では被告人の共同被告人として同一公判で審理を受けており、刑訴応急措置法11条2項に基づき被告人はBを直接尋問する権利を有していた。実際に第一審の証拠調べに際し、裁判所は被告人に対し供述者(B)を尋問できる旨を明示的に告知している。これに対し被告人が自ら尋問を行わない旨を回答した以上、被告人には適法に反対尋問の機会が与えられていたといえる。したがって、第一審で既に尽くされた手続を控訴審で反復する必要はなく、当該聴取書を証拠として採用した原判決に憲法上の問題はない。
結論
被告人に尋問の機会が一度適法に与えられていた以上、控訴審で重ねて尋問の機会を与える必要はなく、当該書面を証拠とすることは適法である。
実務上の射程
伝聞例外(刑訴法321条等)の適用場面において、反対尋問権の保障がどの段階で充足されるべきかを示す射程を持つ。第一審で放棄した尋問権を控訴審で再度主張することは制限されるという、手続の不可逆性と迅速性を重視する判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和48(あ)1759 / 裁判年月日: 昭和50年3月25日 / 結論: 棄却
刑訴法二二七条二二八条に基づき、被告人及び弁護人に立会の機会を与えることなく証人尋問調書が作成されたのち、当該証人が死亡したため、第一審が、検察官の請求により、同法三二一条一項一号により右証人尋問調書を証拠として採用したため、結局、被告人は証人尋問調書について証人を反対尋問する機会を与えられずに終ったとしても、憲法三七…
事件番号: 昭和24(れ)382 / 裁判年月日: 昭和24年4月26日 / 結論: 破棄差戻
原審に於て辯護人から證人としてAの訊問を申請したのに對し、その訊問の機會を與えることに著しい困難があつたとは認められないにも拘わらず、原審は右の申請を却下し、しかも同人に對する司法警察官代理聽取書中の同人の陳述記載を證據として、採用し、これを他の證據と綜合して本件犯罪事實を認定したものであること所論の通りである。このよ…
事件番号: 昭和24新(れ)327 / 裁判年月日: 昭和25年5月16日 / 結論: 棄却
憲法第三七條第二項の趣旨は、第三者の供述を證據とするには、かならずその者を公判において證人として訊問することを命じたものではなく、したがつて聽取書若しくは供述に代わる書面をもつて證言に代えることを絶對に禁じたものでないことについては當裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第一六七號同年七月一九日大法廷判決)。…