およそ裁判所が、被告人の公判廷における供述並びに供述の態度、訴訟記録、その他辯論の全趣旨により、被告人に精神の異状はないと認めた以上は、ことさらに精神鑑定を命ずる必要はない。
被告人に精神異状の認められない場合と鑑定の要否
舊刑訴法219條,舊刑訴法317條
判旨
裁判所が被告人の公判廷における供述や態度、訴訟記録等の資料に基づき、被告人に精神の異状がないと認めた場合は、必ずしも精神鑑定を命ずる必要はない。
問題の所在(論点)
裁判所が精神鑑定を行わずに被告人の責任能力を認めることの是非、およびどのような場合に精神鑑定を命ずべきかが問題となる(刑法39条、刑事訴訟法上の事実認定の適法性)。
規範
裁判所は、被告人の公判廷における供述の内容および供述の態度、訴訟記録、その他弁論の全趣旨等の諸資料を総合的に考慮し、被告人に精神の異状がないと認めた場合には、職権で精神鑑定を命ずる必要はないと解される。
重要事実
被告人は金銭に窮し厭世的となり、本件犯行前に自殺を決意するに至った。しかし、第一審公判において、被告人は近親者に知的障害がある者はいない旨を回答し、一、二審を通じた供述も終始筋道が通っていた。また、公判において被告人側から心神喪失または心神耗弱の主張はなされていなかった。
あてはめ
被告人の供述は論理的で一貫しており、訴訟記録や弁論の全趣旨に照らしても精神に異状があるとは認められない。このような事情のもとでは、たとえ自殺を決意するなどの厭世的心理状態にあったとしても、裁判所が精神鑑定を命じないことに違法はない。したがって、被告人に刑法39条の適用がないとした原判断は正当である。また、自己の意思により犯行を中止した事実も認められないため、中止未遂も成立しない。
結論
被告人に精神の異状がないと認められる以上、精神鑑定を命じる必要はなく、責任能力を肯定して刑法39条を適用しなかった判断は妥当である。また中止未遂の主張も棄却される。
実務上の射程
責任能力の判断において、裁判所が臨床医学的判断(精神鑑定)に依拠せずに事実上の指標から判断できる限界を示した。答案上は、精神鑑定の要否が争点となる事案において、鑑定なしで責任能力を肯定する場合の許容性を示す根拠として用いることができる。
事件番号: 昭和27(あ)2187 / 裁判年月日: 昭和28年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】心神耗弱の認定において、専門家の鑑定結果に依拠しつつ、被告人の公判供述等の諸事情を総合して判断した原審の認定は相当であり、違法ではない。 第1 事案の概要:被告人が心神耗弱状態にあったか否かが争われた事案。第一審および原審において鑑定書が提出され、それに基づきつつ被告人の公判供述等も踏まえた事実認…