全部が建物所有のための賃貸借の目的となつている一筆の土地について仮換地の指定があり、賃借人が土地区画整理法八五条一項の規定によつてした賃借権の申告が右賃借権の存在を確認する裁判が未確定である等の理由で受理を留保されている場合において、右土地上の旧建物は土地区画整理事業の施行者により仮換地上に移築されており、仮換地の指定どおり換地処分がされるまでそれ程日時を要しないなど、判示の事実関係があるときは、賃貸人が仮換地の使用収益権に基づいて賃借人に対し建物を収去して仮換地の明渡を請求することは、権利の濫用にあたり許されない。
仮換地について賃借権の目的となるべき土地の指定を受けていない賃借人に対する賃貸人の明渡請求が権利の濫用にあたるとされた事例
民法1条3項,土地区画整理法85条1項,土地区画整理法98条
判旨
土地区画整理事業において、仮換地の指定に伴い従前地の建物が移築された場合、土地所有者が仮換地の使用収益権に基づき建物収去及び土地明渡しを求めることは、賃借権の存在や生活困窮等の諸事情を考慮すると権利の濫用に当たり許されない。
問題の所在(論点)
土地区画整理法上の仮換地指定がなされた状況において、土地所有者が仮換地の使用収益権に基づいて、従前地からの賃借権を主張する占有者に対し、建物収去及び土地明渡しを請求することが権利の濫用に当たるか。
規範
形式上は仮換地の使用収益権に基づく請求であっても、①従前地における適法な利用権原の存否、②仮換地指定に伴う移築の経緯、③権利申告の状況、④換地処分の蓋然性、⑤賃料支払の継続性、⑥当事者の生活状況等を総合考慮し、請求が正当な利益を欠き相手方に過酷な負担を強いる場合には、権利の濫用(民法1条3項)として認められない。
重要事実
上告人(所有者)の従前地に対し、被上告人は建物所有目的の期間の定めのない賃借権を有していた。区画整理事業により仮換地が指定され、施行者が従前地の建物を壊して仮換地上に建物を移築した。被上告人は土地区画整理法85条1項に基づき賃借権を申告したが、一審判決未確定を理由に受理を留保された。被上告人は賃料支払(受領拒絶後は供託)を継続し、事業は換地処分目前であった。また、被上告人は老齢かつ病弱で、建物の賃料等で生計を維持していた。上告人は仮換地の使用収益権に基づき建物収去・土地明渡しを求めた。
事件番号: 昭和45(オ)1003 / 裁判年月日: 昭和47年11月9日 / 結論: 棄却
否定(昭和三四年(オ)三二六号、同三六年三月七日第三小法廷判決・民集一五巻三号三六五頁参照)
あてはめ
被上告人は従前地について正当な賃借権を有しており、本件建物は施行者による移築の結果として仮換地上に存在している。被上告人は賃借権の申告や賃料支払を継続しており、利用権原を維持する誠実な対応をとっている。一方で事業は完了間近であり、あえて今明渡しを強制する必要性に乏しい。さらに、被上告人が老齢・病弱で生計維持に本件建物を必要としている事実に照らせば、上告人の請求は正当な権利行使の範囲を逸脱し、被上告人に酷な結果を強いるものである。したがって、権利の濫用といえる。
結論
上告人による建物収去及び土地明渡し請求、ならびに賃料相当損害金の請求は、いずれも権利の濫用に当たり、認められない。
実務上の射程
土地区画整理事業の途上において、賃借権の対抗要件や申告に不備がある場合でも、実質的な利用権原があり生活基盤となっている場合には、所有者側からの形式的な明渡請求を封じ込める論理として活用できる。特に、仮換地における使用収益権の行使に対する制約原理として機能する。
事件番号: 昭和37(オ)445 / 裁判年月日: 昭和41年4月22日 / 結論: 棄却
借地権者が従前土地上に登記ある建物を所有している場合でも、借地権の申告に基づいて施行者が仮換地上に使用収益部分の指定をしなければ、仮換地上に使用収益権は生じない。
事件番号: 昭和34(オ)882 / 裁判年月日: 昭和35年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地区画整理法における仮換地指定がなされた場合、従前の宅地の所有者は、仮換地について所有権の内容である使用収益権と同視すべき権利を取得する。また、仮換地上の建物所有者が不法占拠者である場合には、同法99条2項の規定にかかわらず、仮換地権利者は直ちにその使用収益をなし得る。 第1 事案の概要:従前の…
事件番号: 昭和44(オ)1165 / 裁判年月日: 昭和45年2月27日 / 結論: 棄却
賃貸人が、借地上の賃借人所有の建物に対し占有移転禁止等の仮処分を執行したことにより、賃借人の借地の使用収益を妨げたとしても、そのために借地法一二条に基づく賃料増額請求が許されなくなるものではない。
事件番号: 昭和44(オ)26 / 裁判年月日: 昭和44年4月22日 / 結論: 棄却
従前の土地の一部の賃借人は、特段の事情のないかぎり、土地区画整理事業の施行者から、使用収益部分の指定を受けることによつて、はじめてその部分について、現実に使用収益をすることができる。