酒に酔つて飲食店でナイフを振い客を脅したとして警察署に連れてこられた者の引渡を受けた警察官が、右の者の飲食店における行動などについて所要の調査をすれば容易に判明しえた事実から合理的に判断すると、その者に右ナイフを携帯させたまま帰宅することを許せば帰宅途中他人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれが著しい状況にあつたというべきであるような判示の事実関係のもとにおいて、右の調査を怠り、漫然と右の者から右のナイフを提出させて一時保管の措置をとることなくこれを携帯させたまま帰宅させたことは、違法である。
警察官がナイフの所持者からこれを提出させて一時保管の措置をとらなかつたことが違法とされた事例
国家賠償法1条1項,銃砲刀剣類所持等取締法24条の2第2項
判旨
警察官が、飲酒酩酊し凶器を所持して暴行・脅迫等を行った者を保護・引致した際、十分な調査をせず凶器を返還して帰宅させた行為は、他人の生命等に危害を及ぼす具体的危険がある状況下では、銃砲刀剣類所持等取締法の規定に基づく一時保管等の義務に違反し、国家賠償法上違法となる。
問題の所在(論点)
警察官が、銃砲刀剣類を所持し異常な挙動を示した者を解放する際に、当該物件を一時保管しなかったことが、国家賠償法1条1項の適用において職務上の義務違反(違法)となるか。
規範
警察官が、銃砲刀剣類所持等取締法に基づき、刀剣類を一時保管し、又は提出させるべき職務上の義務を負うか否かは、当該所持者の言動、周囲の状況、凶器の危険性等を総合し、当該人物に凶器を携帯させたまま帰宅させれば、他人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれが著しい状況にあるといえるか否かによって判断される。
重要事実
加害者Dは、粗暴犯の前科を多数持ち、飲酒酩酊状態で鋭利なナイフを振り回して客を脅迫したため、被害者Iらによって警察署へ連行された。警察官はDの身元を確認し、刺青も確認したが、前科の有無や連行者への詳細な事情聴取を行わなかった。Dは「ナイフは果物の皮をむくため」と弁解し、警察官はこれを鵜呑みにしてナイフを返還し、Dを帰宅させた。その後、Dは帰宅途中にナイフでIを負傷させた。
あてはめ
Dは銃砲刀剣類所持等取締法22条に違反する不法所持の状態にあり、かつ脅迫罪にも該当し得る危険な行動をとっていた。警察官はDの弁解を鵜呑みにせず、連行者に質問すれば異常な挙動を容易に知ることができた。これらの事情から、ナイフを携帯させたまま帰宅させれば他人の生命等に危害を及ぼす具体的・客観的な危険が著しかったといえる。したがって、同法24条の2第2項に基づきナイフを提出させ一時保管すべき義務があった。これを怠り返還したことは職務上の義務に違背する。
結論
警察官の行為は国家賠償法1条1項にいう違法な公権力の行使にあたり、その後の加害行為との間に相当因果関係も認められるため、国(又は公共団体)は賠償責任を負う。
実務上の射程
警察官の権限行使が「裁量」とされる場面であっても、客観的に危害発生の具体的危険が切迫している場合には、権限を行使すべき職務上の法的義務が生じることを示した。職務不作為の違法性を論じる際の重要判例である。
事件番号: 平成15(あ)163 / 裁判年月日: 平成17年11月8日 / 結論: 棄却
反目状態にあった男とのけんか抗争等に備える目的で自車のダッシュボード内に入れておいた刃物を車外に持ち出した後に路上で携帯する行為は,同人運転の自動車に意図的に衝突されて自車が転覆し,車外にはい出す際に護身用にズボンのポケットに上記刃物を移し替えたという事情があることを考慮しても,その違法性が阻却される余地はない。
事件番号: 平成7(あ)463 / 裁判年月日: 平成11年2月17日 / 結論: 棄却
警察官である被告人の銃砲刀剣類所持等取締法違反及び公務執行妨害の犯人に対する二回にわたる発砲行為は、右犯人を逮捕し、自己を防護するために行われたものではあるが、犯人の所持していたナイフが比較的小型である上、犯人の抵抗の態様も一貫して被告人の接近を阻もうとするにとどまり、被告人が接近しない限りは積極的加害行為に出たり、付…
事件番号: 平成17(あ)1319 / 裁判年月日: 平成19年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が警察官から連行されそうになった際、これを免れるため、所持していたアタツクナイフ(刃体の長さ約12.2センチメートル)を振り回し、警察官らに突き付けて抵抗した行為は、刑法95条1項の公務執行妨害罪における「脅迫」に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、警察官らから無理矢理連行されそうになっ…