終戦後新島近くの海中に大量に投棄された旧陸軍の砲弾類の一部が海浜に打ち上げられ、たき火の最中に爆発して人身事故が生じた場合において、投棄された砲弾類が島民等によつて広く利用されていた海浜に毎年のように打ち上げられ、島民等は絶えず爆発による人身事故等の発生の危険にさらされていたが、この危険を通常の手段では除去することができず、放置すれば島民等の生命、身体の安全が確保されないことが相当の蓋然性をもつて予測されうるような判示の事実関係のもとで、警察官がこれを容易に知りうるような状況にあつたときは、警察官において、自ら又は他の機関に依頼して、右砲弾類を回収するなど砲弾類の爆発による人身事故の発生を未然に防止する措置をとらなかつたことは、その職務上の義務に違背し、違法である。
海浜に打ち上げられた旧陸軍の砲弾により人身事故を生じた場合に警察官においてその回収等の措置をとらなかつたことが違法であるとされた事例
国家賠償法1条1項,警察法2条,警察官職務執行法4条1項
判旨
警察官が、国民の生命・身体に重大な危害を及ぼす危険な状況を容易に知り得、かつ国民自身でその危険を除去できない状況下では、警察官職務執行法等の権限を行使して危険を防止すべき職務上の義務が生じ、これを行使しないことは国賠法1条1項の違法を構成する。
問題の所在(論点)
警察官の危険防止措置(警職法4条1項等)が裁量的権限である場合に、その不行使が直ちに国家賠償法1条1項の違法と評価されるか。具体的には、警察官の権限行使が職務上の法的義務に転化する要件が問題となる。
規範
警察法2条、警職法4条1項等の権限は、警察の責務達成のための裁量権限であるが、①生命・身体に重大な損害を及ぼす危険が相当の蓋然性をもって予測でき、②国民側で当該危険を通常手段では除去できず、③警察官がその状況を容易に知り得る場合には、権限を行使して危険を未然に防止すべき職務上の義務が発生する。この義務に違背して権限を行使しなかったことは、国家賠償法1条1項の適用上、違法となる。
重要事実
終戦直後に新島沿岸の海中に投棄された大量の砲弾類が、その後毎年のように海水浴場である海岸に打ち上げられていた。所轄警察署は、島民がこれらを拾得し不用意に取り扱っている実態や、爆発の危険性を認識し、自衛隊への処理依頼を上申したが、警視庁レベルで放置された。その後、中学生が焚火に投入した砲弾が爆発し、死傷者が発生した。
あてはめ
①海岸は海水浴場であり、焚火や砲弾の不適切な取扱いの実態から爆発事故の発生は相当の蓋然性をもって予測可能であった。②大量の砲弾が海中に存在し打ち上げられる状況は、島民らの手段では除去不能であった。③警察署は現に多数の砲弾を回収・保管しており、状況を完全に把握していた。以上から、単なる警告に留まらず、自ら又は他機関に依頼して積極的に回収すべき職務上の義務が生じていたといえる。これを行わなかったことは、裁量の逸脱・濫用として違法である。
結論
警察官の権限不行使は職務上の義務に違背し違法である。よって、国賠法1条1項に基づき、国または公共団体は損害賠償責任を負う。
実務上の射程
「警察権限の行使が義務に転化する場面」を示す重要判例。生命身体への具体的危険、予見可能性、結果回避の容易性、他力本願(自己回避不能性)といった要素から「裁量の収縮」を論じる際の標準的な枠組みとして、規制権限の不行使全般に射程を有する。
事件番号: 昭和55(オ)401 / 裁判年月日: 昭和57年1月19日 / 結論: 棄却
酒に酔つて飲食店でナイフを振い客を脅したとして警察署に連れてこられた者の引渡を受けた警察官が、右の者の飲食店における行動などについて所要の調査をすれば容易に判明しえた事実から合理的に判断すると、その者に右ナイフを携帯させたまま帰宅することを許せば帰宅途中他人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれが著しい状況にあつたというべ…