譲渡担保を設定した債務者による債務の弁済と右弁済に伴う目的不動産の返還請求権とを合体し、一個の形成権たる受戻権として、これに民法一六七条二項の規定を適用することはできない。
譲渡担保を設定した債務者の目的不動産に対するいわゆる受戻権と民法一六七条二項の規定の適用の可否
民法167条2項,民法369条(譲渡担保)
判旨
譲渡担保における債務者の受戻請求は、形成権の行使ではなく、所有権等に基づく返還請求権の行使である。そのため、受戻権が債務の履行期から20年の消滅時効(旧民法167条2項)にかかることはなく、債権者による換価処分が完結するまでは債務の弁済による受戻が可能である。
問題の所在(論点)
譲渡担保における債務者の受戻権は、債務の履行期から20年の経過によって消滅時効にかかる独立の「形成権」といえるか。また、換価処分が未了である場合に、弁済期から長期間経過した後の受戻が認められるか。
規範
不動産譲渡担保において、債務者は、弁済期経過後であっても、債権者による換価処分(適正評価額での自己所有化または第三者への売却等)が完結するまでは、債務を弁済して目的物を取り戻すことができる。この受戻の請求は、弁済により回復した所有権に基づく物権的請求権、または契約に基づく債権的返還請求権等の行使である。したがって、これらを一個の形成権たる「受戻権」と構成して消滅時効(旧民法167条2項)を適用することはできない。
重要事実
Dは昭和28年、被上告人から10万円を借り入れ、本件土地を譲渡担保に供して所有権移転登記を経由した。本件債務の弁済期は昭和29年末であったが、Dが元金相当額を提供したのは昭和47年、残債務を完済したのは昭和51年であった。被上告人は、受戻権は形成権であり、弁済期の翌年から20年の経過により消滅時効が完成したと主張した。原審はこれを認め、Dの相続人らによる登記抹消等の請求を棄却した。
事件番号: 昭和40(オ)825 / 裁判年月日: 昭和43年3月7日 / 結論: 棄却
期限の定めのない債務のための不動産の譲渡担保においては、債務者が債権者に対し債務を弁済して担保物の返還を受けうる期間について、民法第五八〇条の適用はない。
あてはめ
本件において、被上告人による換価処分が完結した事実は認められない。受戻の法的性質は形成権ではなく、債務弁済を前提とした所有権に基づく請求権等の行使である。そうである以上、弁済期から20年が経過したことのみをもって受戻権が時効消滅したと解することは、譲渡担保の本質に反する。Dによる昭和47年および51年の弁済が、利息・遅延損害金等を含め債務の本旨に従ったものであるか否かを審理すべきであり、単なる期間経過を理由に受戻を否定した原審の判断は妥当ではない。
結論
受戻権は消滅時効にかかる形成権ではないため、換価処分が完結していない限り、債務者は弁済により目的物を取り戻すことができる。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
司法試験において、譲渡担保の実行前における債務者の受戻の可否が問われた際に活用する。受戻の法的性質を「形成権」ではなく「所有権に基づく請求権等」と明確に論証し、消滅時効の適用を否定する流れで用いる。また、受戻の限界として「換価処分の完結」をキーワードとして提示する際に必須の判例である。
事件番号: 昭和40(オ)353 / 裁判年月日: 昭和44年12月18日 / 結論: 破棄差戻
不動産を買い受け所有権に基づいてこれを占有する買主は、売主との関係においても、自己の占有を理由として右不動産につき時効による所有権の取得を主張することができる。
事件番号: 昭和47(オ)723 / 裁判年月日: 昭和50年11月21日 / 結論: 棄却
物上保証人に対する抵当権の実行により、競売裁判所が競売開始決定をし、これを債務者に告知した場合には、被担保債権についての消滅時効は中断する。
事件番号: 昭和52(オ)1057 / 裁判年月日: 昭和54年2月22日 / 結論: 棄却
仮登記担保関係において、債権者が履行遅滞を理由に代物弁済予約の完結の意思表示をし、目的不動産につき予め交付を受けていた登記に必要な書類を利用して仮登記に基づく所有権移転登記を経由した場合でも、清算義務を負うときは、債務者は、清算金の提供を受けるまでは債務を弁済して目的不動産を取り戻すことができる。
事件番号: 昭和42(オ)1415 / 裁判年月日: 昭和43年6月21日 / 結論: 棄却
農地法第五条の知事の許可を要する農地の売買契約で解約手附が授受された場合において、売主および買主が連署のうえ同条による許可申請書を知事あてに提出したときは、特約その他特別の事情のないかぎり、売主および買主は、民法第五五七条第一項にいう「契約ノ履行ニ著手」したものと解すべきである。