父の死亡の日から三年一か月を経過したのちに右死亡の事実が子の法定代理人らに判明したが、子又はその法定代理人において父の死亡の日から三年以内に認知の訴えを提起しなかつたことがやむをえないものであり、また、右認知の訴えを提起したとしてもその目的を達することができなかつたことに帰すると認められる判示の事実関係のもとにおいては、他に特段の事情がない限り、民法七八七条但書所定の認知の訴えの出訴期間は、父の死亡が客観的に明らかになつた時から起算すべきである。
民法七八七条但書所定の認知の訴えの出訴期間は父の死亡が客観的に明らかになつた時から起算すべきであるとされた事例
民法787条但書
判旨
死後認知の訴えにおける3年の出訴期間(民法787条但書)は、父の死亡当時、子がその嫡出子として戸籍に記載されていたため訴えを提起できなかった等の特段の事情がある場合、父の死亡が客観的に明らかになった時から起算される。
問題の所在(論点)
父の死亡から3年を経過した後にその死亡の事実が判明した場合、民法787条但書(死後認知の訴えの出訴期間)を形式的に適用し、認知請求を却下すべきか。
規範
民法787条但書が死後認知の訴えの期間を父の死亡の日から3年に制限した趣旨は、身分関係の法的安定と認知請求権者の利益保護との衡量調整にある。したがって、死亡の日から3年以内に訴えを提起しなかったことがやむを得ず、かつその期間内に提訴しても目的を達し得なかった等の特段の事情がある場合には、出訴期間は「父の死亡が客観的に明らかになった時」から起算すべきである。
重要事実
母Dと内縁関係にあったEが昭和50年11月に出奔・死亡したが、DはEの死亡を知らず、昭和51年2月にEとの婚姻届および子(上告人)の出生届を提出した。これにより上告人は戸籍上Eの嫡出子となった。しかし、昭和53年12月に警察の身許照会でEが昭和50年に死亡していたことが判明し、婚姻・出生届が無効として戸籍訂正された。Dは昭和54年5月に上告人の代理人として死後認知の訴えを提起したが、Eの死亡から既に3年を経過していた。
あてはめ
本件では、Eの死亡判明時に既に死亡日から3年1か月が経過していた。その間、上告人は戸籍上Eの嫡出子としての身分を取得しており、真実の父子関係を争う前提を欠いていたといえる。そのため、期間内に認知の訴えを提起しなかったことは「やむを得ない」といえ、仮に提訴しても嫡出子である以上、目的を達することはできなかったと解される。このような状況で出訴期間の徒過を認めることは認知請求権者に酷である。したがって、本件では「特段の事情」が認められ、起算点は死亡時ではなく死亡が客観的に判明した昭和53年12月初めとなる。
結論
本件訴えは、父の死亡が客観的に明らかになった時から3年以内に提起されており、出訴期間を徒過した不適法なものとはいえない。
実務上の射程
条文上「死亡の日から」とある期間制限を、信義則や法目的の観点から修正した判例である。事実上、子が戸籍上嫡出子として扱われていた等、提訴が物理的・法律的に不可能であった場合に限定して適用される射程を持つ。
事件番号: 昭和55(オ)774 / 裁判年月日: 昭和55年12月23日 / 結論: 棄却
内縁関係により懐胎出生し、民法七七二条の類推適用により父性の推定を受ける子についても、認知の訴の提起にあたつては出訴期間の制限に関する同法七八七条但書の適用がある(昭和四四年(オ)第七六九号同年一一月二七日第一小法廷判決・民集二三巻一一号二二九〇頁参照)。