一、選挙管理委員会は、選挙運動用ポスターに記載された候補者の政見その他の主張に関係する文言については、その当否を審査し、その取消又は修正を命ずる権限を有しない。 二、市長選挙に際し、対立候補者である現職市長の行つている同和対策を批判する趣旨で「同和対策是か非か」という文言を選挙運動用ポスターに記載した候補者に対し、選挙管理委員会委員長らが右文言は同和対策事業特別措置浅の趣旨に反し穏当を欠くとしてその抹消を求めた場合において、右抹消要求が、単に右文言を抹消させるにとどまらず、候補者の同和対策批判の主張をも封殺しようとして、強硬かつ選挙民の思惑を顧みない方法でされたものであり、その結果、候補者は右文言中の「是か非か」の部分の抹消を余儀なくされ、残された「同和対策」の文言のみでは同和対策批判の主張の趣旨が不明確となつてしまい、また、候補者が右の主張をポスター以外の選挙運動の方法 選挙民に訴えるについても全く制約を受けなかつたとはいい切れないなど判示の事情があるときは、選挙の自由公正が著しく阻害されたものとして、選挙は無効となる。
一、選挙運動用ポスターの記載内容と選挙管理委員会の審査、規制の権限 二、選挙管理委員会委員長らが候補者に対しその選挙運動用ポスター記載の文言の抹消を求めた行為が選挙の自由公正を著しく阻害したとして選挙が無効とされた事例
公職選挙法143条1項5号,公職選挙法147条,公職選挙法205条1項
判旨
選挙管理委員会が候補者のポスターの記載内容(政見)に介入し、その取消しを求めた行為は、公職選挙法上の権限を逸脱し選挙の自由公正を著しく阻害するものであり、同法205条1項の「選挙の規定に違反することがあるとき」に該当する。
問題の所在(論点)
選挙管理委員会が候補者のポスターの記載内容に干渉し、その修正・抹消を求めた行為が、公選法205条1項の「選挙の規定に違反」し、かつ「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある」場合に該当するか。
規範
1. 公選法205条1項の「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、選挙管理機関が明文の規定に違反した場合のみならず、選挙の基本理念である「選挙の自由公正の原則」が著しく阻害される場合を含む。 2. 選管にはポスターの形式(枚数・規格等)を規制する権限はあるが、記載内容(政見・主張)を審査し、取消しや修正を命じる権限はない。選管が候補者の政見に介入・干渉し、選挙民の自由な意思による選択を妨げた場合、選挙の自由公正を著しく阻害したものと解する。
重要事実
加須市長選挙において、候補者Xは「同和対策是か非か」と記載したポスターを掲示した。市選管等は、2枚を連続して貼ったことが規格(公選法144条3項)に違反すると指摘するだけでなく、その文言が不穏当であるとして、執拗に文言自体の取消しを求めた。選管職員ら11名が多人数でX宅に乗り込む等の強硬な態様により、Xは「是か非か」の文字を抹消せざるを得なくなり、スローガンが不明確となった。Xは落選したが、当選者との票差はあったものの、Xは元市長であり一定の得票(6513票)を得ていた。
あてはめ
1. 違反の有無:選管にはポスターの規格違反を是正させる権限はあるが、文言の内容まで審査・介入する権限はない。本件行為は、形式的違反の是正に必要な範囲を超え、Xの政見そのものを封じようとしたものであり、その態様も多人数で自宅に乗り込む等強硬である。これによりXの主張は不明確となり、選挙民の正しい理解と自由な選択が妨げられたといえるから、選挙の自由公正が著しく阻害された。 2. 結果への影響:Xは元市長で相当数の得票を得ていたことに鑑みれば、当選者との得票差が6000票あったとしても、選挙の結果に異動を及ぼす「可能性」は否定できない。
結論
本件行為は公選法205条1項の要件を満たし、本件選挙は無効である。
実務上の射程
選挙無効訴訟において、選管の公選法上の権限逸脱が「選挙の自由公正」を侵害したかを判断する際のリーディングケース。形式的な違反(規格違反等)を奇貨として実質的な政見介入を行うことの違法性を論じる際に活用できる。「結果に異動を及ぼす虞」について、単なる確実性ではなく「可能性」で足りるとする基準も実務上重要である。
事件番号: 昭和41(行ツ)91 / 裁判年月日: 昭和42年3月30日 / 結論: 棄却
候補者立会演説会において一候補者の演説中聴衆から野次があつたが、そのために演説が聞きとれないほどのものではなく、司会者たる市選挙管理委員長も二、三回にわたりこれを制止した事実があるときは、右委員長が野次を行なつた者を退去させる措置までとらなかつたとしても、立会演説会の秩序維持を怠つたものということはできない。
事件番号: 平成14(行ヒ)95 / 裁判年月日: 平成14年7月30日 / 結論: 棄却
村長選挙において,現職の村長が,選挙の管理執行に密接に関連する戸籍謄抄本の交付事務についての権限を濫用し,他の立候補予定者が立候補の届出書に添付すべき戸籍抄本の交付を受けることを妨げて,同人の立候補することを妨害し,自ら無投票当選を果たし,選挙人の投票の機会を奪った行為は,公職選挙法205条1項にいう選挙の規定の違反に…