村長選挙において,現職の村長が,選挙の管理執行に密接に関連する戸籍謄抄本の交付事務についての権限を濫用し,他の立候補予定者が立候補の届出書に添付すべき戸籍抄本の交付を受けることを妨げて,同人の立候補することを妨害し,自ら無投票当選を果たし,選挙人の投票の機会を奪った行為は,公職選挙法205条1項にいう選挙の規定の違反に当たる。
村長選挙において現職の村長が他の立候補予定者の立候補を妨害して自ら無投票当選を果たした行為が公職選挙法205条1項にいう選挙の規定の違反に当たるとされた事例
公職選挙法86条の4第4項,公職選挙法100条4項,公職選挙法100条6項,公職選挙法205条1項,公職選挙法施行令89条2項1号イ(2)
判旨
現職の村長が、戸籍謄抄本の交付権限を濫用して他者の立候補を妨害し、自ら無投票当選を果たした行為は、選挙の管理執行に密接に関連する事務における著しく不公正な取扱いであり、選挙の自由公正を著しく阻害するものとして、公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反すること」に該当する。
問題の所在(論点)
現職村長がその権限を濫用して特定の立候補予定者の立候補を阻害し、無投票当選を招いた行為が、公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反すること」に該当し、選挙無効事由となるか。
規範
公職選挙法205条1項にいう「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、主として選挙管理機関が明文の規定に違反する場合のみならず、明文がなくとも選挙の自由公正の原則が著しく阻害される場合を指す。また、選挙管理機関以外の者の行為であっても、選挙の管理執行に密接に関連する事務を行う者が、選挙人全般の自由な判断による投票を妨げ、同原則を著しく阻害したと認められる場合には、これに該当する。
重要事実
新潟県a村の村長選挙において、現職村長Dは、対立候補となる予定であった被上告人が立候補に必要な戸籍抄本の交付を求めた際、休日であることを理由に不交付の方針を決定した。Dは、交付を試みた担当職員に対し「懲戒免職にする」等の脅迫的発言を行い、公印を自ら管理して交付を実力で阻止した。被上告人は立候補を断念せざるを得ず、結果としてDが無投票当選となった。
あてはめ
まず、戸籍謄抄本の交付事務は立候補届出(法86条の4第4項等)に不可欠であり、選挙の管理執行に密接に関連する事務といえる。次に、Dは村長としての地位・権限を濫用し、自己が無投票当選するために他者の立候補を意図的に妨害した。この行為は、単なる特定の候補者への妨害にとどまらず、全有権者から投票の機会を完全に奪うものであり、選挙の自由公正の原則を著しく阻害する不公正な取扱いにあたるといえる。
結論
Dの行為は「選挙の規定に違反すること」に該当し、選挙の結果に異状を及ぼすおそれがあるため、本件選挙は無効である。
実務上の射程
選挙管理機関そのものの違法行為だけでなく、首長等による関連事務の権限濫用が「選挙の自由公正」を害する場合にも選挙無効を認め得ることを示した。答案上は、明文違反がない場面で「自由公正の原則」を適用する際の具体的事例として、事務の密接関連性と侵害の重大性(投票機会の剥奪等)に注目して論じるべきである。
事件番号: 昭和32(オ)1126 / 裁判年月日: 昭和33年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】投票立会人に候補者の親戚や選挙運動員を選任したとしても、直ちに選挙の公正を著しく害するとはいえない。また、注文外の投票用紙の印刷等の事態があっても、具体的な不正の証拠がなく、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがない限り、選挙を無効とはしない。 第1 事案の概要:上告人は、市町村議会等の選挙において、(…
事件番号: 昭和24(オ)321 / 裁判年月日: 昭和25年9月8日 / 結論: その他
一 権限のない者によつて選任せられた投票立会人の立会について、投票管理者が異義を述べなかつたからといつて、右の投票立会人が投票立会人としての資格を具有するに至るものと解することはできない。 二 ある村の選挙を全部無効とし改めて適法な手続によつて選挙をやりなおすにおいては、その村の属する選挙区における候補者の当落に異動を…
事件番号: 昭和42(行ツ)20 / 裁判年月日: 昭和42年4月15日 / 結論: 棄却
選挙人、候補者、選挙運動者等の選挙の取締りないし罰則違反の行為は、公職選挙法第二〇五条第一項にいう選挙の規定違反にあたらないものと解するのが相当である。