相続人が遺言の執行としてされた遺贈による所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴については、遺言執行者がある場合でも、受遺者を被告とすべきである。
遺言執行者がある場合に相続人が遺贈による登記の抹消登記手続を求める訴と受遺者の被告適格
民法1012条,民法1015条
判旨
遺言執行者が遺言の執行として受遺者への登記を経由した後は、当該登記の抹消を求める訴えの被告適格は受遺者にあり、遺言執行者を被告とする訴えは不適法である。
問題の所在(論点)
遺言の執行として受遺者宛に所有権移転(仮)登記が既になされている場合、相続人がその抹消登記手続を求める訴訟において、遺言執行者は被告適格を有するか。民法1012条及び1013条の範囲が問題となる。
規範
遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法1012条)、相続人の処分権を排除する(同1013条)。しかし、遺言の執行として一旦受遺者へ登記が経由された後は、当該登記に関する権利義務は受遺者に帰属し、その保持や争絶はもはや「遺言の執行」そのものとはいえない。したがって、当該登記の抹消を求める訴訟においては、遺言執行者ではなく、権利の帰属主体である受遺者が被告適格を有する。
重要事実
本件では、特定の不動産について遺言に基づき受遺者への所有権移転仮登記がなされた。これに対し、相続人である被控訴人(原告)が、遺言の無効を主張し、遺言執行者(控訴人・上告人)を被告として、当該仮登記の抹消登記手続等を求めて提訴した事案である。原審は、抹消請求について遺言執行者の被告適格を否定し、訴えを却下すべきとした。
事件番号: 昭和51(オ)190 / 裁判年月日: 昭和51年7月19日 / 結論: 棄却
遺言執行者がある場合に、包括受遺者が遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記手続を求める訴の被告としての適格を有する者は、遺言執行者に限られる。
あてはめ
遺言執行者の任務は遺言の内容を実現することにある。本件において、遺言執行者は既に遺言の内容に従い、受遺者への登記という執行行為を完了している。執行完了後の登記を巡る紛争において、登記を保持することは遺言の執行に無関係ではないが、法的には当該登記の権利義務は受遺者に帰属している。そのため、遺言執行者が民法1012条に基づく管理処分権を有すると解することはできず、遺言執行者を被告として抹消を求めることはできないと解される。
結論
受遺者宛に登記が経由された後の抹消登記請求訴訟については、遺言執行者ではなく受遺者を被告とすべきであり、遺言執行者を被告とした本件訴えは不適法として却下される。
実務上の射程
遺言執行者が絡む訴訟において、被告適格(または原告適格)の有無は、当該行為が「遺言の執行」の範囲内か、あるいは既に「権利が受遺者に帰属」した後の紛争かで区別される。執行未了の段階における遺贈義務の履行や妨害排除は遺言執行者の権限だが、執行完了後の登記の効力自体を争う場合は受遺者本人が当事者となる。答案上は、現在の登記状態と、訴訟の目的が「執行の実現」か「執行後の現状回復」かを見極めて使い分ける必要がある。
事件番号: 昭和41(オ)1097 / 裁判年月日: 昭和42年6月6日 / 結論: 棄却
不動産の所有権が順次甲、乙、丙と譲渡された場合に、甲が乙に対し所有権移転登記をする意思で、登記申請書類を交付していたときは、甲の右登記申請意思は、丙が右書類を利用して甲から丙に直接所有権移転登記をすることを無効たらしめるものではない。
事件番号: 昭和63(オ)357 / 裁判年月日: 平成2年6月5日 / 結論: 破棄自判
売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記の経由された不動産につき抵当権の設定を受け、その登記を経由した者は、予約完結権の消滅時効を援用することができる。
事件番号: 昭和42(オ)427 / 裁判年月日: 昭和42年12月19日 / 結論: 棄却
仮登記原因の疎明の有無は、仮登記仮処分命令の効力に消長をきたすものではない。