石油等の輸送及び販売を業とする使用者が、業務上タンクローリーを運転中の被用者の惹起した自動車事故により、直接損害を被り、かつ、第三者に対する損害賠償義務を履行したことに基づき損害を被つた場合において、使用者が業務上車両を多数保有しながら対物賠償責任保険及び車両保険に加入せず、また、右事故は被用者が特命により臨時的に乗務中生じたものであり、被用者の勤務成績は普通以上である等判示の事実関係のもとでは、使用者は、信義則上、右損害のうち四分の一を限度として、被用者に対し、賠償及び求償を請求しうるにすぎない。
使用者がその事業の執行につき被用者の惹起した自動車事故により損害を被つた場合において信義則上被用者に対し右損害の一部についてのみ賠償及び求償の請求が許されるにすぎないとされた事例
民法1条2項,民法709条,民法715条3項
判旨
使用者が被用者の加害行為により損害を被った場合、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度においてのみ、被用者に対し賠償または求償を請求できる。
問題の所在(論点)
使用者が被用者の業務上の過失によって損害を被った場合、民法715条3項や債務不履行(415条)、不法行為(709条)に基づき、被用者に対してその全額を賠償または求償請求することができるか(逆求償の制限)。
規範
使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り、または使用者責任(民法715条1項)を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防または損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる。
重要事実
燃料輸送・販売業を営む上告人(資本金800万円、従業員約50名、車両約20台保有)の被用者である被上告人B(月収約4万5000円、勤務成績普通以上)は、臨時的にタンクローリーを運転中、前方不注視等の過失により先行車に追突する事故を起こした。上告人は経費節減のため、当該車両に対人保険のみ加入し、対物・車両保険には未加入であった。上告人は被上告人らに対し、直接被った車両損害および被害者への賠償額の全額について求償等を求めた。
あてはめ
まず、上告人の事業規模や車両数に照らせば、事故のリスクは予見可能であり、対物・車両保険への加入等による損失分散の措置を講じる余地があったにもかかわらず、経費節減のためにこれを怠っていた。次に、被上告人の業務は本来小型貨物車の運転であり、事故当時は臨時的な任務であったこと、過失の態様も交通渋滞時の不注視という一般的なものであったこと、および給与水準等の労働条件を考慮すべきである。以上の諸般の事情を総合すると、使用者が損害の全額を被用者に転嫁することは損害の公平な分担という見地から相当とはいえず、信義則上、損害額の4分の1の範囲に制限するのが相当である。
結論
上告人の請求は、信義則上相当と認められる限度(本件では損害額の4分の1)においてのみ認められる。
実務上の射程
本判決は、使用者による被用者への求償(逆求償)だけでなく、使用者の直接損害(車両損害等)の賠償請求にも信義則による制限が及ぶことを示した。実務上、全額の請求が認められることは稀であり、会社側のリスク管理義務(保険加入の有無)や報償責任の法理、労働分配率などが制限の強弱を左右する要素となる。
事件番号: 昭和41(オ)721 / 裁判年月日: 昭和42年6月8日 / 結論: 棄却
預金係として定期預金証書の作成について密接な関連がある職務に従事している信用金庫の職員が定期預金証書を持ち出して、得意先係である他の職員に交付し、同人が右用紙を利用して定期預金証書を偽造し、その偽造にかかる証書を真正なものと信じて金銭を貸与した第三者が損害をこうむつた等原判決の確定した事実関係(原判決理由参照)のもとに…