双方の過失に基因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、相殺は許されない。
同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間における相殺の許否
民法509条,民法709条
判旨
不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺は、同一の交通事故により生じた物的損害に基づく損害賠償債権が相互に対立する場合であっても、民法509条により許されない。
問題の所在(論点)
同一の交通事故により生じた不法行為に基づく損害賠償債権が相互に対立する場合において、民法509条(当時の規定)を適用して相殺を禁止すべきか、それとも現実の支払を省略できる合理的理由があるとして相殺を認めるべきかが問題となる。
規範
民法509条の趣旨は、不法行為の被害者に現実の弁済によって損害の填補を受けさせること等にある。したがって、不法行為による損害賠償債務を負担する者は、被害者に対して不法行為債権を有している場合であっても、当該債権を自働債権として相殺により債務を免れることは、原則として許されない。この理は、双方の過失に基因する同一交通事故によって生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても同様に適用される。
重要事実
被上告会社の被用者Bが運転するマイクロバスと、上告人A1が所有しA2が運転する乗用車が衝突し、双方の車両が破損した。事故の原因は、Bの過失が主たるものであるが、A2の過失も一因であった。A1は被上告会社らに対し、車両代金等の損害(被害者側の過失相殺後27万2800円)の賠償を求めた。これに対し被上告会社は、自社の車両修理代金相当の損害賠償債権(過失相殺後5万8104円)を自働債権として、A1の債権と相殺する旨の抗弁を主張した。
事件番号: 昭和53(オ)1198 / 裁判年月日: 昭和54年9月7日 / 結論: 棄却
双方の過失に起因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、相殺は許されない。 (反対意見がある。)
あてはめ
民法509条の禁止の趣旨は、被害者に現実の弁済を受けさせるという点にあるところ、本件のような同一事故による物損相互の債権であっても、この趣旨は妥当する。原審は、一個の衝突事故による物損相互の債権であれば同条の適用がなく相殺が許されると判断したが、法が不法行為債権を受働債権とする相殺を一律に禁止している以上、発生原因の同一性を理由にこれを例外とする解釈は認められない。したがって、被上告会社による相殺の抗弁は認められず、A1の損害賠償債権が消滅することはない。
結論
同一の交通事故に基づく損害賠償債権相互間であっても、民法509条により相殺は許されない。よって、相殺を認めた原判決の一部を破棄し、上告人A1の請求を認容する。
実務上の射程
改正民法509条下においても、人の生命・身体の侵害による損害賠償債権を受働債権とする相殺は禁止されている。本判決は、改正前において物損債権についても厳格に相殺を禁止したものであるが、現行法上も「悪意による不法行為」に該当する場合等には、同一事故による物損債権同士であっても相殺が禁止される場面があり、その解釈において本判決の趣旨が参照される。
事件番号: 昭和36(オ)1256 / 裁判年月日: 昭和37年5月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為による損害賠償請求において、被害者側にも過失が認められる場合であっても、加害者は直ちに免責されるものではなく、過失相殺として損害賠償額の算定に際して斟酌されるにとどまる。 第1 事案の概要:上告人の被用者Dが運転する車両による事故により、被害者Eが死亡した。本件事故はDの過失に基づいて惹起…