甲を欺罔してその農地を買い受けた乙が、農地法五条の許可を条件とする所有権移転仮登記を得たうえ、右売買契約上の権利を善意の丙に譲渡して右仮登記移転の附記登記をした場合には、丙は民法九六条三項にいう第三者にあたる。
民法九六条三項にいう第三者にあたる場合
民法96条3項
判旨
民法96条3項にいう「第三者」とは、詐欺による意思表示の有効性を信頼して新たに利害関係を有するに至った者をいい、農地法上の許可を停止条件とする所有権移転請求権の譲受人もこれに含まれる。かかる第三者は、取消しの結果を対抗されないために必ずしも対抗要件を備えていることを要しない。
問題の所在(論点)
民法96条3項の「第三者」として保護されるためには、所有権等の完全な物権を取得し、かつ対抗要件を備えている必要があるか。特に農地法上の許可前の条件付権利の譲受人が「第三者」に当たるか。
規範
民法96条3項の趣旨は、詐欺被害者の救済を図る一方、意思表示の有効を信頼して新たに利害関係を有するに至った者の地位を保護する点にある。したがって、「第三者」とは右の趣旨に照らして合理的に画定されるべきであり、必ずしも物権の転得者で対抗要件を備えた者に限定されない。また、農地の売買契約であっても、許可申請手続をなすべき義務等の条件付の権利が発生し、これを譲受けることは「新たに利害関係を有するに至った」といえる。
重要事実
A(被上告人)は、Eの詐欺により本件農地をEに売却し、農地法5条の許可を条件とする所有権移転仮登記を経由した。Eは、債務の売渡担保として、本件農地上の右権利を善意のF(上告人の被承継人)に譲渡し、仮登記移転の付記登記を完了した。その後、AはEの詐欺を理由に売買契約を取り消し、Fに対し仮登記抹消等を求めて提訴した。
事件番号: 昭和40(オ)1016 / 裁判年月日: 昭和42年6月30日 / 結論: その他
甲が乙との間で自己所有の建物につき代物弁済の予約を締結し、乙が右予約に基づく完結権を行使したが、その所有権移転登記前に右完結の意思表示を撤回し、しかる後関係書類を利用して、右建物を自己名義に所有権移転登記を経由した場合には、乙から右建物を買受けてその旨の所有権移転登記を受けた丙および丙からこれを賃借した丁らは甲に対し右…
あてはめ
Fは、Eとの売渡担保契約により、Eが本件農地について取得していた「許可があれば所有権を取得できる条件付の権利」を譲り受けている。農地法上の許可がない限り所有権移転の効力は生じないが、契約自体は有効であり、許可があれば正当に所有権を転得できる地位にあるといえる。このような地位にある者は、詐欺による意思表示から生じた法律関係について新たに利害関係を有するに至った者に該当し、保護されるべきである。また、同条項の趣旨に照らし、対抗要件の具備までを要件とする必要はない。
結論
Fは民法96条3項の「第三者」に該当するため、Aは詐欺による取消しの効果をFに対抗することができず、Aの抹消登記請求は棄却される。
実務上の射程
本判決は、96条3項の「第三者」の範囲を物権取得者や対抗要件具備者に限定しないことを明示した。答案作成上は、取消前の第三者が「新たな利害関係」を有するかを検討する際、農地のような条件付権利であっても、将来的に権利を取得し得る法的地位があれば足りると構成する根拠となる。対抗要件不要説の根拠としても重要である。
事件番号: 昭和46(オ)803 / 裁判年月日: 昭和47年11月28日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙と相通じ、仮装の所有権移転請求権保全の仮登記手続をする意思で、乙の提示した所有権移転登記手続に必要な書類に、これを仮登記手続に必要な書類と誤解して署名押印したところ、乙がほしいままに右書類を用いて所有権移転登記手続をしたときは、甲は、乙の所有権取得の無効をもつて善意・無過失の第三者に対抗することができない。
事件番号: 昭和43(オ)446 / 裁判年月日: 昭和43年10月8日 / 結論: 棄却
予告登記の存することの一事から、これに後行して係争不動産につき物権の得喪変更に関する法律行為を為した第三者が、当該登記原因の瑕疵につき悪意と推定されるべき筋合はない。
事件番号: 昭和44(オ)1009 / 裁判年月日: 昭和45年6月2日 / 結論: その他
甲が、融資を受けるため、乙と通謀して、甲所有の不動産について売買がされていないのにかかわらず、売買を仮装して甲から乙に所有権移転登記手続をした場合において、乙がさらに丙に対し右融資のあつせん方を依頼して右不動産の登記手続に必要な登記済証、委任状、印鑑証明書等を預け、丙がこれらの書類により乙から丙への所有権移転登記を経由…