他人の権利の売主をその権利者が相続し売主としての履行義務を承継した場合でも、権利者は、信義則に反すると認められるような特別の事情のないかぎり、右履行義務を拒否することができる。
他人の権利の売主をその権利者が相続した場合と売主としての履行義務
民法560条,民法896条
判旨
他人の権利の売主(債務者)を権利者が相続した場合、権利者は信義則に反するような特別の事情のない限り、権利の移転につき諾否の自由を保有し、履行を拒絶できる。相続による義務の承継という偶然の事情により、当然に権利が移転するものではない。
問題の所在(論点)
他人の権利を目的とする契約(売買・代物弁済)において、売主(債務者)を権利者が相続した場合、権利者は当然にその権利を移転すべき義務を負うか。相続による義務の承継と、権利者の諾否の自由の優越が問題となる。
規範
他人の権利の売主を権利者が相続した場合、権利者は相続により売主の地位を承継するが、これにより当然に権利が買主に移転するものではない。権利者は権利の移転につき諾否の自由を有しており、信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り、相続による義務の承継という偶然の事由によってその自由を奪われることはなく、売買契約上の履行義務を拒否することができる。この法理は、他人の権利を代物弁済に供した債務者を権利者が相続した場合にも同様に妥当する。
重要事実
債務者Dが、債権者(被上告人)に対し、自己の所有ではない上告人A所有の土地建物を代物弁済として供した。その後、Dが死亡し、本来の権利者であるAがDの共同相続人の一人としてDの地位を相続した。被上告人は、Aが債務者Dの地位を相続したことにより、当該土地建物の所有権が当然にAから被上告人へ移転したと主張した。
あてはめ
本件において、上告人Aは本件土地建物の本来の権利者であり、本来その権利をDに移転するか否かの自由を有していた。Dの死亡によりAがDの債務を相続したことは「偶然の事由」にすぎず、これによって直ちにAの諾否の自由が否定されるべき理由はない。また、Aが移転を拒否しても被上告人は契約解除や損害賠償(民法561条等)により保護され得るため、不測の不利益を被るとはいえない。したがって、信義則に反するような特別の事情が認められない限り、Aは相続した代物弁済義務の履行を拒絶し得る。
結論
本来の権利者が債務者を相続しても、当然に所有権が移転することはない。権利者は、信義則に反する等の特段の事情がない限り、履行を拒否できる。
実務上の射程
無権代理人が本人を相続した場合(当然に有効)との対比で重要。他人物売買では、権利者としての独自の地位が尊重されるため「当然に有効」とはならない。答案上は、まず相続による地位の承継を認めた上で、本判例の規範を示し、信義則違反の有無を検討する流れとなる。
事件番号: 昭和27(オ)604 / 裁判年月日: 昭和28年10月9日 / 結論: 棄却
商人の借地権の放棄に関する契約は、たとえ右借地権がその営業所の敷地に関する場合であつても、商法第五〇九条にいわゆる「其営業ノ部類ニ属スル契約」とはいえない。
事件番号: 昭和43(オ)717 / 裁判年月日: 昭和45年3月26日 / 結論: 棄却
甲所有の丁土地と乙所有の戊土地とを交換する契約が甲乙間になされ、乙が丁土地をさらに丙に譲渡して未だその登記を経ない間に、乙に対する国税の滞納処分として戊土地が差押公売されたため、甲が履行不能を理由に右交換契約を解除した場合において、甲が、交換契約に基づき戊土地を自ら使用しており、他方右契約当時においても丁土地が乙から丙…
事件番号: 昭和39(オ)943 / 裁判年月日: 昭和40年3月5日 / 結論: 棄却
賃借地上の賃借人所有の家屋が第三者に無断譲渡された後に右家屋が他に賃貸された場合において、家屋買取請求権が行使されたときは、土地所有者は、右家屋の所有権を取得すると共に、家屋賃借人に対する賃貸人の地位をも継承する。