会社が、企業運営の刷新を図るため従業員に対し職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた時期に、従業員が、午後一一時二〇分頃他人の居宅に故なく入り込み、住居侵入罪として処罰されたとしても、右行為が会社の業務等に関係のない私生活の範囲内で行なわれたものであり、その受けた刑罰は罰金二五〇〇円の程度にとどまり、会社における職務上の地位も単なる工員であるにすぎなかつた等原判示の事情(原判決理由参照)のもとにおいては、右行為は、「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した」という右会社の就業規則に定める懲戒解雇事由にはあたらない。
夜半他人の居宅に故なく入り込み住居侵入罪として処罰されたことが懲戒解雇事由にあたらないとされた事例
労働基準法89条
判旨
労働者の私生活上の行為を理由とする懲戒は、それが企業の組織、業務に関係のないものである限り原則として許されず、賞罰規則上の「体面を汚した」等の要件に該当するかは、行為の性質・態様、会社の規模・業態、職務上の地位等を総合考慮して判断すべきである。
問題の所在(論点)
労働者の私生活上の犯罪行為が、就業規則に定める懲戒事由としての「会社の体面を著しく汚した」場合に該当するか。また、その判断においていかなる事情を考慮すべきか。
規範
労働者の私生活上の行為であっても、企業の社会的評価を低下させ、その円滑な運営を妨げるおそれがある場合には懲戒の対象となり得る。賞罰規則にいう「会社の体面を著しく汚した」といえるかは、当該行為の性質、態様、企業の規模、業態、社会的評価、当該労働者の職務上の地位・権限等の諸事情を総合して、客観的に判断されるべきである。
重要事実
タイヤ製造販売会社(上告人)の従業員(被上告人)が、夜間に他人の居宅へ故なく侵入し、住居侵入罪として罰金2,500円の略式命令を受けた。上告人は当時、経営刷新のため規律厳守を強調していた。当該犯行は数日のうちに噂となり広まったが、被上告人の職務は指導的立場にない蒸熱作業担当の工員であった。上告人は、賞罰規則の「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当するとして懲戒解雇に処した。
事件番号: 昭和42(オ)1005 / 裁判年月日: 昭和43年4月9日 / 結論: 棄却
不当労働行為にあたる解雇は無効である。
あてはめ
本件行為は、会社の組織・業務等に関係のない私生活の範囲内で行われたものである。また、科された刑罰は罰金2,500円という比較的軽微な額に止まっている。さらに、被上告人の職務上の地位も指導的なものではなく、一工員に過ぎない。これらの点に鑑みれば、犯行の態様が不名誉な性質(破廉恥罪)を含み、社内で噂が広まったという事情を併せ考慮しても、直ちに「会社の体面を著しく汚した」とまで評価することは当たらない。
結論
被上告人の行為は懲戒解雇事由に該当せず、本件懲戒解雇は無効である。
実務上の射程
私生活上の非違行為に対する懲戒権行使の限界を示した重要判例である。答案上では、①私生活上の行為は原則として懲戒の対象外であること、②例外的に「企業秩序に直接関連する場合」に限り懲戒が可能であることを示した上で、本判例の総合考慮要素(行為の性質、地位、刑罰の重さ等)を用いて、企業の社会的評価への具体的影響の有無を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和54(オ)750 / 裁判年月日: 昭和56年3月24日 / 結論: 棄却
会社がその就業規則中に定年年齢を男子六〇歳、女子五五歳と定めた場合において、担当職務が相当広範囲にわたつていて女子従業員全体を会社に対する貢献度の上がらない従業員とみるべき根拠はなく、労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡は生じておらず、少なくとも六〇歳前後までは男女とも右会社の通常の職務であれば職務…
事件番号: 昭和45(オ)982 / 裁判年月日: 昭和49年3月15日 / 結論: 棄却
会社の従業員が、いわゆるa事件に加担して、日本国とアメリカ合衆国との問の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反の罪により逮捕、起訴され、これが広く報道されたため、会社の社会的評価に悪影響があつたとしても、その犯行の動機、目的が破廉恥なものでなく、これに対する有罪判決の刑も罰金二〇〇〇円にとどまり、かつ、会…
事件番号: 昭和43(オ)499 / 裁判年月日: 昭和50年4月25日 / 結論: 破棄差戻
労働組合から除名された労働者に対し使用者がユニオン・ショップ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として行う解雇は、右除名が無効な場合には、他に解雇の合理性を裏づける特段の事由がないかぎり、無効である。
事件番号: 昭和43(オ)932 / 裁判年月日: 昭和48年12月12日 / 結論: 破棄差戻
一、憲法一四条や一九条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。 二、企業者が特定の思想、信条を有する労働者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。 三、労働基準法三条は、労働者の雇入れそのものを制約する規定ではない。 四、労働者を雇い入れようとする企業者が、その…