一、憲法一四条や一九条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。 二、企業者が特定の思想、信条を有する労働者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。 三、労働基準法三条は、労働者の雇入れそのものを制約する規定ではない。 四、労働者を雇い入れようとする企業者が、その採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることは、違法とはいえない。 五、企業者が、大学卒業者を管理職要員として新規採用するにあたり、採否決定の当初においてはその者の管理職要員としての適格性の判定資料を十分に蒐集することができないところから、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で試用期間を設け、企業者において右期間中に当該労働者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権を留保したときは、その行使は、右解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解すべきである。
一、憲法一四条、一九条と私人相互間の関係 二、特定の思想、信条を有することを理由とする雇入れの拒否は許されるか 三、雇入れと労働基準法三条 四、企業者が労働者の雇入れにあたりその思想、信条を調査することの可否 五、試用期間中に企業者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約に基づく留保解約権の行使が許される場合
憲法14条,憲法19条,民法1条,民法90条,労働基準法3条,労働基準法第2章
判旨
憲法14条や19条等の基本的人権の規定は私人間の関係に直接適用されず、企業者は雇用の自由を有するため、採用時に思想・信条を理由に拒否することや、それに関連する事項を調査・申告させることは原則として違法ではない。もっとも、試用期間中の本採用拒否(解約権の行使)は、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められる場合にのみ許容される。
問題の所在(論点)
1. 憲法14条、19条の規定が私人間に直接適用されるか。2. 企業者が採用にあたり、労働者の思想・信条に関する事項を調査・申告させることは許されるか。3. 試用期間中の本採用拒否(留保解約権の行使)の有効性の判断基準。
規範
1. 憲法の基本的人権規定は、公権力と個人の関係を律するものであり、私人間には直接適用されない。私人間では、私的自治の原則に基づき、社会的に許容しうる限度を超える侵害に対し、民法1条、90条、不法行為規定等の解釈を通じて間接的に効力を及ぼすべきである。2. 企業者は経済活動の自由(憲法22条、29条)の一環として「契約締結の自由」を有し、法律の制限がない限り、特定の思想・信条を理由とした雇入れ拒否や、適格性判断のための調査(過去の活動の申告要求)を原則としてなしうる。3. 試用期間は「解約権留保付雇用契約」であり、その留保解約権の行使は、当初知ることができず、また知ることを期待できない事実が判明した場合において、引き続き雇用することが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的で社会通念上相当な場合に限り許される。
事件番号: 昭和62(行ツ)119 / 裁判年月日: 平成元年1月17日 / 結論: 棄却
地方公務員法二八条四項、一六条二号は、憲法一三条、一四条一項に違反しない。
重要事実
被上告人は、上告人(三菱樹脂)の採用試験に際し、学生運動への参加経験や所属団体について秘匿、または虚偽の回答をした。3か月の試用期間の満了直前、上告人は当該秘匿を理由に本採用を拒否(雇用契約を解約)した。被上告人は、思想・信条の自由を侵害する不当な解雇であるとして、従業員としての地位確認を求めて提訴した。
あてはめ
1. 憲法規定は私人間には直接適用されないため、上告人が被上告人の思想・信条に関連する過去の行動を調査したことは、直ちに憲法違反とはならない。2. 企業者は「採用の自由」を有し、労働基準法3条も「雇入れ後」の差別を禁ずるにとどまるため、思想・信条を理由とした雇入れ拒否や、その調査も原則として法的に許容される。3. もっとも、試用期間は既に雇用関係に入った段階であり、通常の解雇よりは広く認められるものの、解約権の行使には客観的合理性と社会的相当性が必要である。本件において、学生運動歴の秘匿等の事実が、企業の円滑な運営や管理職要員としての適格性判断において、どの程度の重要性を有し、信頼関係を破綻させるものといえるかを具体的に検討する必要がある。
結論
企業者が採用に際し思想・信条を調査し、これを理由に雇入れを拒否することは原則として自由であるが、試用期間終了時の本採用拒否については、解約権留保の趣旨に照らし、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される必要がある。
実務上の射程
私人間における憲法の「間接適用説」を確立したリーディングケース。答案では、①憲法の私人間適用(間接適用)、②採用の自由(思想・信条による差別の許容)、③試用期間中の解雇(解雇権濫用法理の変容)という3つの論点について、それぞれ規範として引用する。特に解雇権の制限については、本判決が示した「客観的合理性・社会的相当性」の枠組みを基本としつつ、試用期間中であることを理由に「通常の解雇より広い範囲の自由」が認められる点に注意して記述する。
事件番号: 昭和62(オ)515 / 裁判年月日: 平成元年12月21日 / 結論: 棄却
ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法九〇条により無効である。
事件番号: 昭和45(オ)982 / 裁判年月日: 昭和49年3月15日 / 結論: 棄却
会社の従業員が、いわゆるa事件に加担して、日本国とアメリカ合衆国との問の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反の罪により逮捕、起訴され、これが広く報道されたため、会社の社会的評価に悪影響があつたとしても、その犯行の動機、目的が破廉恥なものでなく、これに対する有罪判決の刑も罰金二〇〇〇円にとどまり、かつ、会…
事件番号: 昭和42(オ)1005 / 裁判年月日: 昭和43年4月9日 / 結論: 棄却
不当労働行為にあたる解雇は無効である。