会社の従業員が、いわゆるa事件に加担して、日本国とアメリカ合衆国との問の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反の罪により逮捕、起訴され、これが広く報道されたため、会社の社会的評価に悪影響があつたとしても、その犯行の動機、目的が破廉恥なものでなく、これに対する有罪判決の刑も罰金二〇〇〇円にとどまり、かつ、会社が大規模な生産会社で、当該従業員はその一事業所の工員にすぎないなど判示のような事情のもとにおいては、その行為は、いまだ労働協約及び就業規則所定の懲戒解雇事由である「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚した」ものには該当しない。
懲戒解雇事由である「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」にあたらないとされた事例
労働基準法89条
判旨
従業員の私生活上の行為が懲戒事由に該当するかは、会社の事業の種類・態様・規模、経済界での地位、経営方針、従業員の地位・職種等から、社会的評価に及ぼす影響が相当重大と客観的に評価されるかで判断すべきである。本件の立川基地不法侵入は、報道等により会社に悪影響を及ぼしたものの、行為の不名誉性が弱く従業員の地位も工員にすぎないため、懲戒解雇を正当化するほど「会社の体面を著しく汚した」とはいえない。
問題の所在(論点)
従業員の私生活上の行為が、就業規則所定の懲戒事由である「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」に該当するか。その判断枠組みおよび、会社の社会的評価に与えた影響の程度の評価が問題となる。
規範
営利目的の会社が社会的評価を維持することは事業運営に不可欠であり、職務外の私生活上の行為であっても、会社の社会的評価に重大な悪影響を与える場合は懲戒の対象となりうる。懲戒規定にいう「会社の体面」とは、社会一般の客観的評価を指し、経営者等の主観的感情を含まない。懲戒事由に該当するかは、具体的な業務阻害や不利益の発生を要しないが、行為の性質・情状、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針、当該従業員の会社における地位・職種等を総合的に判断し、社会的評価に及ぼす影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。
事件番号: 昭和43(オ)499 / 裁判年月日: 昭和50年4月25日 / 結論: 破棄差戻
労働組合から除名された労働者に対し使用者がユニオン・ショップ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として行う解雇は、右除名が無効な場合には、他に解雇の合理性を裏づける特段の事由がないかぎり、無効である。
重要事実
鉄鋼製造を目的とする大規模企業(従業員約3万人)の工員であった被上告人らは、在日米軍基地の測量阻止を目的として、一般立入禁止の飛行場内に不法に侵入した(砂川事件)。刑事特別法違反により逮捕・起訴され、最終的に罰金2000円の有罪判決を受けた。この事件は広く報道され、会社が巨額借款を申し込んでいた銀行等から問題視された。会社は「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」に該当するとして、被上告人らを懲戒解雇(1名は諭旨解雇)にした。
あてはめ
被上告人らの行為は、政治的動機に基づく集団的暴力事犯であり、報道等により会社の社会的評価を若干低下させた事実は認められる。しかし、行為自体は破廉恥な動機に基づくものではなく、刑事罰も比較的軽微であって不名誉性はさほど強度ではない。また、被上告人らは大規模企業における工員の地位にすぎず、経営上の重要事項である銀行借款の遅延との因果関係も認められない。これらを総合すると、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であるとは客観的に評価できない。
結論
被上告人らの行為は、懲戒解雇事由である「会社の体面を著しく汚したとき」に該当するとはいえず、本件各解雇は無効である。
実務上の射程
私生活上の非行に関する懲戒のリーディングケースである。特に、企業の規模や従業員の地位を相関的に考慮する判断枠組みは、現代の実務(SNSでの不適切投稿等)においても、当該従業員の発信が企業イメージに与える影響力を評価する際に活用される。懲戒の有効性判断においては、単なる主観的な不快感ではなく、客観的な社会的評価の低下の程度を論証する必要がある。
事件番号: 昭和44(オ)204 / 裁判年月日: 昭和45年7月28日 / 結論: 棄却
会社が、企業運営の刷新を図るため従業員に対し職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた時期に、従業員が、午後一一時二〇分頃他人の居宅に故なく入り込み、住居侵入罪として処罰されたとしても、右行為が会社の業務等に関係のない私生活の範囲内で行なわれたものであり、その受けた刑罰は罰金二五〇〇円の程度にとどまり、会社における…
事件番号: 昭和43(オ)932 / 裁判年月日: 昭和48年12月12日 / 結論: 破棄差戻
一、憲法一四条や一九条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。 二、企業者が特定の思想、信条を有する労働者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。 三、労働基準法三条は、労働者の雇入れそのものを制約する規定ではない。 四、労働者を雇い入れようとする企業者が、その…
事件番号: 昭和45(オ)1175 / 裁判年月日: 昭和49年7月22日 / 結論: 棄却
電気機器等の製造販売を目的とする会社が、契約期間を二か月と記載してある臨時従業員としての労働契約書を取りかわして入社した臨時工に対し、五回ないし二三回にわたつて労働契約の更新を重ねたのちにいわゆる傭止めの意思表示をした場合において、右臨時工が景気の変動による需給にあわせて雇用量の調整をはかる必要から雇用された基幹臨時工…
事件番号: 昭和42(オ)1005 / 裁判年月日: 昭和43年4月9日 / 結論: 棄却
不当労働行為にあたる解雇は無効である。