代物弁済予約形式の債権担保契約を締結し、これを原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由した債権者が、予約完結権を行使したうえ、担保目的実現の手段として本登記をするため、登記上利害関係を有する後順位抵当権者その他目的不動産から優先弁済を受ける地位を有する債権者および目的不動産の第三取得者に対し、その承諾を訴求する場合においては、債権者は、目的不動産の適正な評価額のうち自己の債権額を差し引いた残額を、右抵当権者およびその他の債権者にその債権額および優先順位に応じて交付し、なお残額のあるときはこれを第三取得者に交付すべきであり、これらの利害関係人は、その受くべき金銭の支払と引換えにのみ、本登記の承諾義務の履行をなすべき旨を主張することができるものと解するのが相当である。
代物弁済予約形式の債権担保契約における債権者の清算義務と後順位抵当権者および第三取得者の地位
民法369条,民法482条,不動産登記法7条,不動産登記法105条,不動産登記法146条
判旨
仮登記担保において、債権者が予約完結権を行使して目的不動産の所有権を取得する場合、不動産価額が債権額を超えるときは、債権者はその差額を清算金として支払う義務を負う。また、登記上の利害関係人である後順位債権者や第三取得者は、公平の観念に基づき、清算金の支払と引換えにのみ本登記への承諾義務を負うと解される。
問題の所在(論点)
仮登記担保権者が予約完結権を行使した場合において、債権額を超える不動産の価値(清算金)につき、債務者・後順位債権者・第三取得者に対して清算義務を負うか。また、これらの者は清算金の支払と引換えにのみ本登記の承諾をすべきとの同時履行の抗弁を主張できるか。
規範
代物弁済予約に基づく仮登記担保において、その実質は目的不動産から債権の優先弁済を受けることを目的とする担保契約である。したがって、債権者が予約完結権を行使して優先的満足を図るにあたっては、目的不動産を適正に評価し、債権額を差し引いた残額(清算金)を債務者に支払うべき清算義務を負う。また、不動産の交換価値から優先弁済を受ける地位にある後順位債権者や、実質的な留保価値を取得した第三取得者に対しては、清算金の支払と引換えにのみ本登記手続の承諾を求めることができる。
事件番号: 昭和45(オ)731 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 破棄差戻
清算型代物弁済予約の予約権者が、登記簿上利害関係を有する後順位債権者に対して本登記の承諾を求める場合には、右予約権者は、それらの者の債権額および優先順位に応じて清算金を同人らに交付すべき義務があり、同人らは、その交付を受けるのと引換えにのみ右承諾義務の履行をすべき旨を主張しうるものと解すべきである。
重要事実
債権者(被上告人)は、債務者A1に対し30万円を貸し付ける際、担保目的で本件不動産に代物弁済予約をし、所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。その後、本件不動産にはA2への所有権移転登記(第三取得者)および農業協同組合への根抵当権設定登記(後順位債権者)がなされた。債務者が弁済期に支払わなかったため、債権者は予約完結権を行使し、A1には本登記手続を、A2および農協にはその承諾を求めて提訴した。なお、本件不動産の時価は債権額を相当程度超過していた。
あてはめ
本件代物弁済予約は、形式がどうあれ実質は担保契約であり、債権者が不動産の価値を独占することは合理的均衡を欠く。本件では不動産時価が債権額を相当程度超過していることが窺われるため、債権者には差額を清算する義務が生じる。登記上の利害関係人である後順位債権者の農協や第三取得者のA2は、本来清算金から弁済や価値の回収を受けるべき地位にある。よって、公平の観点から、これらの者は清算金の支払を受けるまでは本登記の承諾を拒むことができると解すべきであり、原審が無条件に承諾義務を認めたのは審理不尽である。
結論
債権者は清算金の支払義務を負い、後順位債権者や第三取得者は清算金の支払と引換えにのみ本登記を承諾する義務を負う。本件をさらに審理させるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
仮登記担保法(昭和53年法律第78号)制定前の事案であるが、同法の解釈や、清算金支払義務と登記義務の引換関係を論じる際のリーディングケースとして活用できる。特に「公平の観念」を根拠に同時履行的な関係を認めた点は、実務上極めて重要である。
事件番号: 昭和44(オ)486 / 裁判年月日: 昭和47年7月6日 / 結論: その他
登記簿上後順位の抵当権者またはいわゆる仮登記担保権者であつた者でも、先順位の仮登記担保権者から不動産登記法一〇五条に基づく本登記手続承諾請求を受けた当時、すでに他にその登記につき附記登記による権利移転の登記を経由した者は、特段の事情のない限り、登記原因たる実体上の権利に基づき、仮登記担保権者に対して清算金を受けるべき地…
事件番号: 昭和43(オ)489 / 裁判年月日: 昭和44年10月16日 / 結論: 破棄差戻
一、不動産に関する代物弁済の予約につき請求権保全の仮登記が経由されている場合においては、該不動産の所有権が第三者に移転したときであつても、代物弁済予約権者は、予約の相手方に対して予約完結の意思表示をすべきである。 二、貸金債権担保のため同一不動産につき代物弁済の予約とともに抵当権の設定があり、その抵当権が転抵当に供され…
事件番号: 昭和25(オ)201 / 裁判年月日: 昭和28年2月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済予約等の担保契約において、担保物件の価額と被担保債権額に著しい不均衡がない限り、公序良俗に反して無効とはならない。契約の有効性は、特段の事情がない限り、担保契約成立時を基準として判断すべきである。 第1 事案の概要:債権者Dは、債務者(上告人)に対し、昭和15年11月から昭和16年1月にか…
事件番号: 昭和29(オ)854 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
昭和一六年一一月中に締結された代物弁済の予約について、債権者のなした予約完結の意思表示が、右予約成立後、物価の高騰した昭和二二年一〇月中になされた場合であつても、原審認定の事実関係(原判決参照)の下においては、右予約完結の意思表示は信義公平に反するものとは認められない。