不動産の所有者甲が、その不知の間に甲から乙に対する不実の所有権移転登記の経由されたことを知りながら、経費の都合や、のちに乙と結婚して同居するようになつた関係から、抹消登記手続を四年余にわたつて見送り、その間に甲において他から金融を受けた際にもその債務を担保するため乙所有名義のまま右不動産に対する根抵当権設定登記が経由されたような事情がある場合には、民法九四条二項を類推適用し、甲は、不動産の所有権が乙に移転していないことをもつて、その後にこれを乙から買受けた善意の第三者丙に対抗することができないものと解すべきである。
不実の所有権移転登記が所有者の承認のもとに存続せしめられていたものとして民法九四条二項を類推適用すべきものとされた事例
民法94条2項
判旨
不動産所有者の不知の間に他人の専断で不実の登記がなされた場合でも、所有者がその登記の存在を知りながら明示または黙示に承認していたときは、民法94条2項が類推適用される。この場合、所有者は不実の登記を信頼して法律上利害関係を有するに至った善意の第三者に対し、登記名義人が所有権を取得していないことを主張できない。
問題の所在(論点)
他人の専断によって不実の所有権移転登記がなされた後、真の所有者がその登記の存在を知りながらこれを放置・承認した場合、民法94条2項の類推適用により善意の第三者が保護されるか。
規範
1. 意思表示の通謀がない場合であっても、不実の登記が所有者の承認のもとに存続せしめられているときは、権利外観を信頼した第三者を保護すべき必要性において、民法94条2項の直接適用場面と差異はない。 2. したがって、①不実の登記の存在、②所有者の承認(権利外観の作出・継続への帰責性)、③第三者の善意、という要件を満たす場合には、同条2項を類推適用し、所有者は第三者に対して虚偽の外観が真実でないことを対抗できないと解する。
重要事実
事件番号: 昭和42(オ)1209 / 裁判年月日: 昭和45年4月16日 / 結論: 破棄差戻
未登記建物の所有者が、その建物につき家屋台帳上他人の所有名義で登録されていることを知りながら、これを明示または黙示に承認した場合には、その所有者は、右台帳上の名義人から権利の設定を受けた善意の第三者に対し、民法九四条二項の類推適用により、右名義人がその所有権を有しなかつたことをもつて、対抗することができない。
1. 被上告人(所有者)は、訴外Dが実印等を冒用して被上告人からDへ不実の所有権移転登記を完了させたことを直後に知った。 2. しかし、被上告人は経費の問題から抹消手続を見送り、その後Dと婚姻して夫婦同居を始めた関係から、不実の登記を放置した。 3. さらに被上告人は、当該土地を担保に融資を受ける際も、D名義のまま根抵当権を設定するなど、D名義の登記を前提とした行動をとっていた。 4. その後、Dは上告人(第三者)に対し、本件土地を売却した。
あてはめ
1. 被上告人は、Dによる勝手な登記を直後に知りながら、婚姻関係や経費の問題を理由に長期間抹消せず放置していた。 2. 加えて、自ら当該土地を担保に供する際にもD名義の登記をそのまま利用していたことから、被上告人は「不実の登記が自己の承認のもとに存続せしめられている」といえるほど強い帰責性を有する。 3. そうであれば、不実の登記がなされたのが事後的承認であっても、登記を信頼した第三者を保護すべき要請は、事前の通謀がある場合と変わらない。 4. したがって、買主である上告人が善意であれば、民法94条2項の類推適用により、上告人は所有権取得を主張し得る。
結論
被上告人の承認がある以上、民法94条2項が類推適用されるため、上告人が善意であれば、被上告人は上告人に対して土地所有権を対抗できない。
実務上の射程
「本人による承認(事後的帰責性)」がある場合の94条2項類推適用のリーディングケース。意思的関与が「通謀(直接適用)」に至らなくても、本人が「自ら作出・維持したのと同視できる外観」を放置した場合には、第三者保護のために110条の法意(過失)を問わず、善意であれば保護される点に注意が必要である(本判決は無過失まで要求していない)。
事件番号: 昭和24(オ)41 / 裁判年月日: 昭和25年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借権の譲渡・転貸において、賃貸人の承諾は黙示的になされることも許容される。また、敷金は賃貸借契約の要素ではないため、敷金返還請求権の承継や代償金の支払がないことは、直ちに賃借権譲渡の事実を否定するものではない。 第1 事案の概要:元賃借人Fの家族が引越した後、被上告人が本件家屋の全部を使用し、家…
事件番号: 昭和29(オ)921 / 裁判年月日: 昭和32年6月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産所有権の譲受人が単に悪意であるというだけでは、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当し得るが、具体的事案における特段の事情(背信的悪意者等)が認められる場合には、その主張は許されない。 第1 事案の概要:本件建物の所有者Dは、まずF(被上告人らの前主)に対し昭和22年2月頃に所有…
事件番号: 昭和26(オ)107 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 破棄差戻
一 甲から不動産を買受けた乙が、丙にその所有権を移転する意思がないに拘らず、甲から丙名義に所有権移転登記を受けることを承認したときは、民法第九四条第二項を類推し、乙は丙が所有権を取得しなかつたことを以て善意の第三者に対抗し得ないものと解すべきである。 二 乙が買受けた不動産につき単に名義上所有権取得の登記を受けたにすぎ…