建物賃貸借契約において、該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があつた場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料債務があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される。
賃貸建物の所有権移転と敷金の承継
民法619条,借家法1条1項
判旨
建物賃貸借において賃貸人の地位が承継された場合、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、承継時における未払賃料債務に当然充当され、残額についてのみ新賃貸人に承継される。
問題の所在(論点)
建物賃貸借において、賃貸人の地位が移転した場合、旧賃貸人に差し入れられていた敷金はどのような範囲で新賃貸人に承継されるか。特に、移転時に存在する未払賃料債務と敷金の関係が問題となる。
規範
敷金は、賃貸借終了時に未払賃料債務等の弁済に当然充当される性質を有する。建物所有権の移転に伴い賃貸人の地位が承継された場合、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、旧賃貸人に対する既発生の未払賃料債務があればその弁済として当然に充当され、その限度で敷金返還請求権は消滅する。したがって、新賃貸人は、充当後の残額についてのみ敷金返還義務を承継する。
重要事実
上告人(賃借人)は、当初の建物賃貸人である亡Dに対し、本件建物の賃貸借契約に基づき敷金を差し入れていた。その後、Dが死亡しEらが賃貸人の地位を相続した後、被上告人(新賃貸人)が本件建物を買い受けて賃貸人の地位を承継した。しかし、上告人は昭和33年3月分以降の賃料支払を滞らせており、地位承継の時点で多額の未払賃料債務が存在していた。
あてはめ
本件において、上告人には旧賃貸人(亡Dおよびその相続人Eら)に対する未払賃料債務が存在する。敷金の当然充当という性質に照らせば、地位承継の時点で、敷金はまずこれらの既発生の未払賃料の弁済に充てられることになる。その結果、充当された範囲で敷金返還請求権は消滅するため、被上告人が承継する敷金返還債務の額は、当初の額から未払賃料額を差し引いた残額に限定される。上告人が主張するような全額の承継は認められない。
結論
賃貸人の地位が承継された場合、敷金は地位承継時の未払賃料債務に当然充当され、新賃貸人はその残額の範囲で敷金返還義務を承継する。
実務上の射程
賃貸人の地位承継に伴う敷金の承継範囲に関するリーディングケースである。民法605条の2第4項の明文化(2017年改正)の基礎となった判例であり、実務上も、地位承継時の「精算」の範囲を確定させる重要な基準として機能する。
事件番号: 昭和52(オ)844 / 裁判年月日: 昭和53年12月22日 / 結論: 棄却
土地賃借権が賃貸人の承諾を得て旧賃借人から新賃借人に移転された場・合であつても、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は、敷金交付者において賃貸人との間で敷金をもつて新賃借人の債務の担保とすることを約し又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、新賃借人に承継されない。
事件番号: 平成7(オ)1705 / 裁判年月日: 平成11年3月25日 / 結論: 棄却
自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物の所有権を第三者に移転した場合に、新旧所有者間において賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨を合意したとしても、これをもって直ちに賃貸人の地位の新所有者への移転を妨げるべき特段の事情があるものということはできない。 (反対意見がある。)