土地賃借権が賃貸人の承諾を得て旧賃借人から新賃借人に移転された場・合であつても、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は、敷金交付者において賃貸人との間で敷金をもつて新賃借人の債務の担保とすることを約し又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、新賃借人に承継されない。
土地賃借権の移転と敷金に関する敷金交付者の権利義務関係の承継の有無
民法612条,民法619条2項
判旨
賃借権の移転に伴い旧賃借人が賃貸借関係から離脱した場合、敷金に関する権利義務関係は、特段の事情がない限り、新賃借人に承継されない。
問題の所在(論点)
賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転し、賃貸人がこれを承諾した場合、敷金に関する権利義務関係(敷金返還請求権)は当然に新賃借人に承継されるか。
規範
敷金契約は、賃貸借に従たる契約であるが別個の契約である。賃借権が移転し旧賃借人が離脱した場合、①敷金交付者が新賃借人の債務を担保する旨を約し、又は②新賃借人に敷金返還請求権を譲渡するなどの「特段の事情」がない限り、敷金関係は承継されない。また、これら合意等の前に敷金返還請求権が差し押さえられている場合、合意の効力を差押債権者に対抗できない。
重要事実
賃借人Dは賃貸人(上告人)に敷金3000万円を交付したが、被上告人(国)がDの滞納国税徴収のため当該請求権を差し押さえ、上告人に通知が到達した。その後、EがDの建物及び本件土地の賃借権を競落し、上告人はこの賃借権移転を承諾した。承諾時、Dに債務不履行はなく、上告人とEは敷金関係の承継を前提とした合意をし、Dもこれを承諾したが、被上告人は差押えに基づき支払いを求めた。
あてはめ
DからEへの賃借権移転を上告人が承諾した際、Dは賃貸借関係から離脱した。この時点でDに債務不履行はなく、敷金は返還可能な状態となった。上告人とEが敷金承継を前提とする合意をし、Dが承諾した事実はあるが、これは被上告人による差押通知の到達後になされたものである。したがって、かかる合意の効力を差押債権者である被上告人に対抗することはできず、特段の事情(有効な承継合意)は認められない。上告人は、承諾によりDに対する敷金返還義務を負うに至ったといえる。
結論
敷金関係は新賃借人に承継されず、賃貸人は旧賃借人の差押債権者に対して敷金返還義務を負う。
実務上の射程
対抗要件(差押え)と承継合意の前後関係が鍵となる。賃貸人交代(オーナーチェンジ)の場合に敷金が当然承継されること(改正民法605条の2第4項)とは異なり、賃借人交代の場合には、旧賃借人の承諾や特段の合意がない限り、敷金は新賃借人に引き継がれず精算されるという原則を示すものである。
事件番号: 昭和46(オ)357 / 裁判年月日: 昭和48年2月2日 / 結論: 棄却
一、家屋賃貸借における敷金は、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するものであり、敷金返還請求権は、賃貸借終了後家屋明渡完了の時においてそれまでに生じた右被担保債権を控除しなお残額がある場合に、その残額につき具体的に発生するも…
事件番号: 昭和38(オ)826 / 裁判年月日: 昭和39年11月17日 / 結論: 棄却
民法第三九五条により競落物件の賃貸人たる地位を承継した競落人が敷金に関する法律関係を当然に承継しなかつたことの立証責任は、競落人の側において負担する。