建物(ビルディング)の貸室の賃貸借契約に際し賃借人から建物所有者である賃貸人に差し入れられた保証金が、右契約成立の時から五年間これをすえ置き、六年目から利息を加えて一〇年間に返還する約定のいわゆる建設協力金であり、他に敷金も差し入れられているなど判示の事実関係のもとでは、右建物の所有権を譲り受けた新賃貸人は、旧賃貸人の右保証金返還債務を承継しない。
建物(ビルディング)の貸室の賃貸借契約に際し賃借人から建物所有者.である賃貸人に差し入れられた保証金の返還債務が右建物の所有権を譲り受けた新賃貸人に承継されないとされた事例
借家法1条1項
判旨
賃貸用建物の所有権移転に伴い、賃貸人の地位が承継される場合であっても、建設協力金としての性格を有する保証金返還債務は、特段の合意がない限り、当然には新所有者に承継されない。
問題の所在(論点)
建物の所有権移転に伴い賃貸人の地位が承継される場合において、賃貸借契約の際に「建設協力金」として交付された保証金の返還債務も、当然に新所有者に承継されるか。その判断にあたり、敷金との性質の差異をどう考えるべきか。
規範
建物賃貸借に伴い交付される金員が、賃料債務等を担保する敷金としての本質を有さず、建物の建設資金にあてることを主目的とする「建設協力金」としての性格を有し、かつ賃貸借とは別個の消費貸借の目的とされたものである場合には、新所有者が当然に当該返還債務を承継する慣習(法)が認められない限り、新旧所有者及び賃借人間の特段の合意がない限り、新所有者に承継されないと解するのが相当である。
重要事実
賃借人Xは、賃貸人Aからビルを賃借する際、敷金とは別に保証金664万余円を交付した。この保証金は、Aがビル建設のために借り入れた金員の返済に充てることを主目的とする「建設協力金」の性質を有し、5年間据え置き後、10年間で均等返還する約定がなされていた。その後、Bが競売により本件建物の所有権を取得し、賃貸人の地位を承継したが、XはBに対し保証金の返還を求めた。
事件番号: 平成7(オ)1705 / 裁判年月日: 平成11年3月25日 / 結論: 棄却
自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物の所有権を第三者に移転した場合に、新旧所有者間において賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨を合意したとしても、これをもって直ちに賃貸人の地位の新所有者への移転を妨げるべき特段の事情があるものということはできない。 (反対意見がある。)
あてはめ
本件保証金は、賃貸借契約書に記載はあるものの、建設資金の返済を目的とする建設協力金であり、賃貸借と別個の消費貸借の目的とされたものである。賃料債務等を担保し賃貸借と密接に結びつく「敷金」とは本質を異にする。新所有者が予期せぬ債務を承継することによる不利益と、賃借人の回収不能のリスクを比較衡量しても、慣習法が存在しない現状では、特段の合意がない限り承継を認めるべきではない。被上告人Bが本件保証金を承継する合意は認められない。
結論
被上告人(新所有者)は、特段の合意がない限り本件保証金返還債務を承継しない。
実務上の射程
敷金と異なり、建設協力金名目などの「預り金」については当然の承継を否定した射程の明確な判例である。答案上は、まず金員の法的性質を確定し、敷金に該当しない(=賃料担保目的が希薄)と判断される場合には、本判例を引用して特段の合意がない限り返還債務が承継されない旨を論じることになる。
事件番号: 昭和52(オ)844 / 裁判年月日: 昭和53年12月22日 / 結論: 棄却
土地賃借権が賃貸人の承諾を得て旧賃借人から新賃借人に移転された場・合であつても、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は、敷金交付者において賃貸人との間で敷金をもつて新賃借人の債務の担保とすることを約し又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、新賃借人に承継されない。