民法第七六〇条の規定による婚姻費用の分担額は、協議がととのわないかぎり、家庭裁判所が決定すべきであつて、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではない。
判決手続による婚姻費用の請求とその分担額の決定
民法760条,家事審判法9条1項乙類3号
判旨
民法760条に基づく婚姻費用の分担額は、夫婦の協議又は家庭裁判所の審判によって具体的に確定されるべきものであり、それらを経ていない場合には通常裁判所の判決手続により請求することはできない。
問題の所在(論点)
婚姻費用の分担請求(民法760条)について、夫婦間での具体的な合意や家庭裁判所の審判を経ていない場合に、判決手続(通常訴訟)によってその支払を求めることができるか。
規範
婚姻費用の分担額は、民法760条に基づき夫婦の協議により決定し、協議が調わないときは家事審判法(現・家事事件手続法)の定めるところに従い、家庭裁判所が夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して決定すべきものである。したがって、通常裁判所が判決手続によりその額を判定すべきものではない。
重要事実
上告人(妻)と被上告人(夫)は婚姻関係にあったが、その関係が破綻した。被上告人は上告人に対し離婚を請求し、上告人はこれに反訴して離婚を求めるとともに、婚姻継続中の生活費(婚姻費用)の支払を請求した。原審は、上告人と被上告人との間に生活費支払の具体的な約定が存在せず、かつ婚姻費用分担に関する家庭裁判所の審判もなされていないことを認定した上で、上告人の生活費請求を排斥した。これに対し、上告人が上告を申し立てた事案である。
事件番号: 昭和42(オ)1195 / 裁判年月日: 昭和44年2月20日 / 結論: 棄却
地方裁判所は、婚姻費用の分担およぴ扶養に関する審判事項を内容とする訴訟事件を、民訴法三〇条一項の規定により家庭裁判所に移送することはできない。
あてはめ
本件において、上告人と被上告人の間には婚姻費用の支払に関する具体的な約定が存在しない。また、婚姻費用分担に関する審判もなされていない。婚姻費用の具体的な分担額は、家庭裁判所が諸般の事情を総合考慮して裁量的に決定すべき事項であり、判決手続で扱う性質のものではない。そうである以上、被上告人の生活費支払義務は具体的に確定していないといえるため、上告人が訴訟を通じて直接その支払を求めることは認められない。
結論
婚姻費用の分担額が協議又は審判により具体的に確定していない限り、判決手続による支払請求は認められない。したがって、上告人の請求を排斥した原判決は正当である。
実務上の射程
婚姻費用の分担を求める場合には、まず家庭裁判所に審判(または調停)を申し立てるべきであることを明示したものである。実務上、婚姻費用の未払分を過去に遡って判決手続(訴訟)で請求することはできず、家事事件手続法上の手続を経る必要があるという基本的な法理として用いられる。
事件番号: 昭和63(オ)316 / 裁判年月日: 平成元年9月7日 / 結論: 破棄差戻
有責配偶者である夫(大正一五年四月生)からの離婚請求であつても、夫婦の別居期間が約一五年六か月に及び、その間の子が夫と同棲する女性に四歳時から実子同然に育てられて一九歳に達しており、妻(昭和九年三月生)は別居期間中夫所有名義のマンションに居住し、主に夫から支払われる婚姻費用によつて生活してきたものであり、しかも、妻が離…
事件番号: 昭和63(オ)270 / 裁判年月日: 平成元年12月11日 / 結論: 棄却
裁判所は、離婚請求を認容するに際し、親権者の指定とは別に子の監護者の指定をしない場合であっても、申立により、監護費用の支払を命ずることができる。
事件番号: 平成14(受)505 / 裁判年月日: 平成16年6月3日 / 結論: 破棄差戻
1 離婚の訴えの原因である事実によって生じた損害賠償請求の反訴の提起及び離婚の訴えに附帯してする財産分与の申立てについては,控訴審においても,相手方の同意を要しない。 2 原審の口頭弁論の終結に至るまでに離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において,上訴審が,原審の判断のうち財産分与の申立てに係る部分について…
事件番号: 昭和39(オ)924 / 裁判年月日: 昭和42年5月23日 / 結論: 破棄差戻
当該口頭弁論期日の開かれた事跡が記録上見当らないことが上告理由で指摘された等判示事実関係のもとにおいては、その後、右期日の開かれた旨を記載する口頭弁論調書を作成することは許されない。