一、確定債権についての債権表の記載は確定判決と同一の効力を有するから、右債権表に記載された債権の消滅時効については、民法一七四条ノ二第一項により、その時効期間は一〇年であると解すべきである。 二、給料の後払いとしての性格を有する退職金債権については、その最後の六か月間の給料相当額について一般の先取特権があると解すべきである。
一、破産手続において債権表に記載された債権の消滅時効期間 二、退職金債権と一般の先取特権
民法174条ノ2,民法306条,民法308条,破産法242条
判旨
退職金が賃金の後払的性格を有する場合、民法306条2号・308条に基づき雇用関係の先取特権が認められるが、その範囲は他債権者との均衡から最後の6ヶ月間の給料相当額に限られる。また、確定債権として債権表に記載された債権の消滅時効は、確定判決と同一の効力により10年となる。
問題の所在(論点)
1. 賃金の後払的性格を有する退職金について、民法306条2号の「雇用関係」の先取特権が認められるか、またその範囲はいかなるものか。 2. 破産債権表に記載され確定した退職金債権の消滅時効期間は、短期消滅時効が適用されるのか、それとも確定判決等により確定した債権として10年となるのか。
規範
1. 退職金債権が賃金の後払的性格を有する場合には、賃金保護という社会政策的趣旨に基づき、民法306条2号の雇用関係の先取特権が認められる。ただし、他の債権者との均衡を考慮した同法308条の趣旨に鑑み、その範囲は最後の6ヶ月間の給料相当額に達するまでの額に限定される。 2. 確定した破産債権として債権表に記載された債権は、確定判決と同一の効力を有するため、その消滅時効期間は民法174条の2第1項(現169条1項)により10年となる。
重要事実
被上告人(労働者)らは、破産会社に対して退職金債権を有しており、当該債権は破産手続において債権表に記載され、異議なく確定していた。上告人(破産管財人側)は、当該退職金債権は短期消滅時効(労働基準法115条等)により消滅したと主張し、また、退職金には一般の先取特権が認められないとして争った。原審は、当該退職金が給料の後払的性格を有することを認定した上で、一部の範囲で先取特権を認め、時効期間を10年とした。
あてはめ
1. 本件破産会社の退職金支給基準および支払状況によれば、本件退職金は給料の後払的性格を持つと認められる。この場合、賃金保護という社会政策的考慮から、民法308条の「最後の6ヶ月間の給料」の範囲内で先取特権を認めることが立法の趣旨に合致する。したがって、当該限度で優先弁済権が認められる。 2. 本件債権は債権表に記載され異議なく確定している。確定債権の債権表記載は確定判決と同一の効力を有するため、民法174条の2第1項により、時効期間は10年へと延長される。労働基準法上の短期時効を適用する余地はない。
結論
退職金に雇用関係の先取特権を認めた原審の判断は相当であり、また債権表記載により時効期間が10年となるため、上告を棄却する。
実務上の射程
退職金の法的性格が「賃金の後払」であると認定される場合における、民法306条・308条の適用範囲を明確にした重要判例である。答案上では、先取特権の対象に退職金が含まれるかを論じる際、その実質的性格(後払的性格)に言及した上で、308条による量的制限を忘れずに指摘する必要がある。
事件番号: 昭和49(オ)715 / 裁判年月日: 昭和49年11月8日 / 結論: 棄却
賃金に該当する退職金の請求権は、労働基準法一一五条に基づき二年間これを行使しないことにより時効消滅する。